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第百九十三回: 評判や噂

 コンプライアンスとかハラスメントというものに翻弄されるという事は、私がそれだけ年を取ったという証拠か。法令遵守という枠だけでは済まされない厳格な規範が、気儘に生きてきた自身に絡まりついている気がする。当初、それらは企業や公的機関における情報漏洩や嫌がらせ、労基法違反などの事例が多かったように思う。しかし現代においては学校やスポーツの団体なども対象となっている。法令はもちろん守らなければならないが、ハラスメントは相手が嫌がらせを受け、不快な思いをしたら成立するので、社内規範に抵触するレベルの事案も含まれる。携帯電話のカメラで動画を撮影されたり録音されたりすれば証拠が残ることもある。一方AIによる偽画像(ディープフェイク)などと言われると、もう何が何だか分からなくなってしまう。

 昔、ある総理大臣が「君は何方の大学ですか」と新聞記者に尋ねた。記者は「東大の文一(文学部)です」と応えた。すると総理は「最近では法学部でなくても東大というのですか」と嫌味な返答をしたという逸和が残っている。真偽のほどは分からない。東大大学院の人文社会系研究科に在籍する副家元、白龍は「東大には理三(医学部)があるだろう」と憤慨していたが、言った本人が鬼籍に入ってしまっているので仕方ない。

 もっと下らない噂もある。財務事務次官がスーパーのロールポリ袋をガラガラと必要以上に巻き取って帰ったそうだ。どうでも良い話だ。日本人は大臣や官僚は聖人君子でなくてはならないという意識が特に強い。私は与えられた仕事を有能にこなしてくれれば、予想以上の業績を残してくれれば、後は刑法に触れない限りどういうスキャンダルを起こそうと構わないと思う。東大法学部を鼻に掛けようがビニール袋を持って帰ろうがやることやっていれば知った事ではない。

 そうは言っても自身を振り返り、いけばなを教えるという不思議な職業に就いていると評判や噂は気になる。私は生活に役立つ物を売っている訳でも病を治せる訳でもない。現在でも華道の家元という仕事が成り立っているという事実が心から嬉しい。感謝はすれど、今の仕事の方針が生徒様の立場に立っているのか要望に合っているか不安はある。生徒様の満足度を推し量る上で噂を気にしてしまう。ただし噂を気にするに当たっては、気を付ける点が数点ある。

  ひとつ目は実際に会ったことのある方が立てている噂がどうかという事だ。ネット上の評価は気にしてもキリがないし、仕方ないと半ば諦めている。嵐が止むのを待つだけである。人の噂も七十五日という。2023年現在、指導している高校の華道部員から「顔を合わせて毎週教えてもらっている先生の方がSNSなんかより信頼できます」と言われたことがとても嬉しかった。却って高校生の方が所詮SNSだからと、割り切っているのかもしれない。

  ふたつ目はそれが純粋な(というのも変だが)評判なのか、意図的に流布されたのかという事。桂古流は本当に恵まれた流派だ。六世華盛が家元に就任し昭和28年に財団法人の認可を得た。七世華慶の堅実な流派運営のお陰もあり生徒様に迷惑かけることなく令和まで発展してきた。幹部も新師範者も師範前の方もそれぞれの立場でお稽古を楽しんでいる。桂古流はその魅力を謙虚に精一杯伝える事に尽力すれば、長い目で見て正解なのだろう。

 祖父先代華盛は外出して公衆トイレがないと我慢して帰ってくる人だった。道端の影などで用を足して桂古流の評判に傷をつけてはならないと考えた。父が量販店でネコの餌を選んでいたら、桂古流の幹部から「家元にビニール袋を持たせて歩かせないで下さい」とたしなめられた。

  人は見たり聞いたりすることを他人に話す。コンプライアンスは評判や噂を規格化したものだと考えられる。批評に対して謙虚にしていれば、また嘗て用いられた「世間様に対して」という意識を持っていれば、あまり神経質にならなくても良いのかと感じる。

 

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