第二百七回:
撓めの技術
古典花に於いて桂古流の魅力は絶妙な寸法の配置と高い撓めの技術にあろう。初めのうちは体、用、留のバランスを取るだけで悲鳴を上げる。役技の分量や空間の気配り等、考える事が多すぎて疲れてしまう。古典花は基本形でもお稽古を始めて数年は頭の体操が続く。頭を使わずに目や手が勝手に判断し、自在に動いていくようになれば、頭が解放され応用が効くようになる。寸法のお話は文字でも伝わりやすいかとも思う。
一方撓めは古典花の経験がないと伝わり難い。草花の茎や木の幹を理想の形に整えるのは、いけばなの流派でも限られた人々が伝授してきた技法だ。立活けに使う花材は私たちの手元に来る時、真直ぐな訳ではない。成長の過程、或いは光合成の必要から螺旋を描きながら伸びていく。枝は位置によって横に、或いは前後に捻じれる。植物としては自然な姿だが、立活けを活ける者にとっては直さねばならばい歪みになる。手間がかかるが一つ一つ直していく。この行為を撓めるという。
花留めとなるハズがきちんと掛けられる事、枝の撓めが自在にできる事、この2つの技術を身に付けるのに生徒様は何年もお稽古される。
撓めはいくつかの方法がある。指の圧で撓める押し撓めは、一般的な方法だ。桂古流の教本には両の親指を押し出すように撓めるが、私は親指側を自身の方へ引き込むようにして撓める。その際に人差し指、中指、薬指、小指の順で力を入れていくと撓めやすい。草花、特に菊は種類にも拠るが撓める事ができるならピシッと切れ目が入るところまで撓める。
切り撓めは幹の曲がった部分に軽く切込を入れ、真っ直ぐな枝に仕上げる際に有効だ。切込が深く入りすぎると立ち上がる強度が弱まるので、撓めながらも芯は残すように心掛ける。
楔撓めは枝物の太い位置や折れやすい部分に用いる。切り撓めよりは深く傷を入れ、楔をくわえさせる。楔の色と幹の色が同系か近似なのが、目立たなくて望ましい。
降り撓めは撓めることの出来る花材だけに使われる。細かく折ることで枝先まで遊びを出せる。
握り撓めは草花や柳などと撓める時に用いる。柔らかい曲を出したい時や草花に有効だ。
撓めの技術の奥深さに歴代家元はじめ、多くの桂古流一門の智嚢の深さに畏敬の念を覚える。
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