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第二百九回:  目立つ花

 昔、桂古流が財団法人になる際、助言して下さった方がいた。高校の校長兼理事長であり真言宗の大僧正であり、奈良の長谷寺の管長も務めた方だった。豪放磊落な性格の上に、歯に衣着せぬ口調で「お前、金儲けしたいか。したければ人のしない仕事、やりたがらない仕事をしろ」と言われた。およそ僧侶らしくない話し方だった。子供の私は「お金は、おじいちゃまがくれるから大丈夫です」と応えると大笑いされ「バカか、人間はみんな死ぬ。お前のお祖父さんも、私も、もちろんお前も死ぬ。自身の人生は自身で組み上げなくてはならない」と喝破された。恥かしながら私はそれまで自身の人生も、生きていくのに必要な経済活動も、考えずに過ごしていた。

 そこでハタと考えた。「取り合えず、人と違う事をして金儲けするか」と。そして日大芸術学部という大学の中で一番金儲けと縁の薄い学部に入った。ある時、教授が学食でお昼をご馳走してくれた。友人Aが「僕は定食でお願いします」と言った。友人Bが「私も定食でお願いします」と続いた。教授はやや不機嫌になった。私が「私も定食で…」と言いかけると、「お前たち」と教授が止めた。「悪いがお前たちは才能がない。合格できる程度の学力と面接をすり抜ける能力があっただけで、芸術の才能とは関係ない。芸術でメシを食っていきたければ、人と同じ物で妥協するな。本当に食べたい物、本当に着たい服、本当に愛する人を常に意識しろ」とまくし立てた。私は定食より量の少ないハムエッグにした。流行、時代、常識と呼ばれるものを眉唾で見る癖はこの頃から始まった。

 現代いけばなを制作するにあたり、気を付けている事の一つに「重量・ボリューム」がある。他の人々が無意識に避ける要因は目立つ作品になりやすい。重い素材、それを取り扱う肉体的苦痛が伴う制作は目立つ現代花となる可能性が高い。前述の「人のしない仕事、やりたがらない仕事」となる。太い枝、大きな石、鉄板など。イメージを膨らませる過程で知らず知らず使う素材のリストから外してしまう。人と違う事をして目立つ花にするならば、嫌われる素材を積極的に調査し、開発していけば良い。

 軽量で大きな空間を取り込める素材(たとえば合成樹脂)は人気があって誰もが使おうとする。乾燥植物、竹ひご類も移動も加工も容易だ。それに対し重い素材で大きな作品に仕上げるには苦難が伴う。加工も専用の工具を必要とするだろう。時には専門家の意見を聞きながら訓練しなくてはならない。
現代いけばなをセンスのみに頼って制作しようとする時代もあった。しかし新たな技術を身に付け専門知識を活かし、その上で手作りの痕跡をしっかり残す作品は目立つ。

 気体でも、液体でもない、固体として存在する作品は目を惹く。それ相応の代償は覚悟しなくてはならない。また残念ながら大僧正の言う金儲けにはつながらない。

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