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第四回:タテとヨコ 〜基礎について〜


私は自分一人でスピーチや講義をするのは割と好きである。
時間とテーマを決めてもらえば、あとは自分勝手に組み立てて話すことができるからだ。

断っておくが、私は一人で話すのが「好き」なのであって「得意」でも「上手」でもない。お世辞で褒めてくれる人もいるが、午後の研究会だと居眠りしている人も多い。その程度である。

一方、ディスカッションは嫌いである。もちろん内輪だけの話ならどんなキワどい事を言っても、その場限りで終るから構わない。

が、活字になって残るとなるとつい用心して話してしまう。
だから非常に平凡中庸な事ばかり口から出てしまう。少し人を惹きつける事も言いたいなと思っても、これを話すと同席しているあの人が傷つくかな、とか考えて黙っている。どうせ後で校正させてくれるのだから言ってしまえば良かった、と必ず後悔する。ちっとも楽しくない。

そんな嫌いなディスカッションの中で未だに忘れられないのは「盛花」について聴かれた時のことである。

司会者は「あなたにとって盛花とは」という質問をパネラーの一人一人にぶつけてきた。その時私の頭の中は「?」だらけになっていた。

いけばな関係のディスカッションだから「いけるとは?」又は「華道とは?」と尋ねてくるのなら、覚悟していたし、どうとでも応えられた。また「あの展覧会にあなたが出品した盛花について」という具体性が加えられるなら、それでも良かった。

しかし中途半端な質問に「へっ?いけばなの一つの型でしょ、それ以外に何て応えりゃいいの」と当惑してしまった。例えて言うなら小説家に「あなたにとって原稿用紙とは?」とかオーケストラの指揮者に向かって「あなたにとってドの音とは?」って尋ねているようなものだ。そんな質問、応えようがない。

私は苦しまぎれに「いけばなのイントロダクションとして最も相応しい型」と応えた。
司会者が「イントロ?」と再び尋ねたので「はい、初心者にはいきなり投入れや立活では難しすぎるので、まず導入部として盛花は最も適していると…」と言いかけると、司会者は首をひねって、次のパネラーに話を移してしまった。

司会者は私が盛花を「簡単なもの」と言っているとでも、勘違いしたのであろうか。
確かに私の言い方もマズかった。私自身は盛花を軽んじたつもりはないし、今も奥の深い花型だと思っている。けれどその場では「新藤君にとって盛花なんて詰らないものなのね」と周りのパネラーにも思われたに違いない。
この後、ディスカッションというと、ますます足が遠のくようになった。

そして臨機応変に的確な言葉で会話する難しさを痛感した。その盛花の表現をどうすれば良いか、しばらく悩むともなし悩んでいたが、或る一文と出会って、霧が晴れるごとく解決してしまったのである。

朝倉直巳が六耀社から出した本の中に、「基礎」のつく学問の考え方、という箇所がある。 そこには「…研究の進展に伴い、学問はより多くの専門に分化していくが、最近では分化とも総合とも受けることのできる新しい分化の仕方が学術の世界に起こっている。

つまり各専門分野の中に含まれている共通的な部分を引き出して総合的に研究する新しいタイプの専門分野が輩出するようになった。タテ割りジャンルの従来型に比べてヨコ割り型の専門分野が発生したと言える。一つの分野が広くなりすぎて専門の数が多くなった結果、全体を見渡して基本的な思考力を体得するための、新しい内容の学問と教育が必要となったのだ。」と書かれている。

基礎医学や基礎工学、基礎法学の「基礎」は上記の意味で使われている。だから初等的なものを対象とする問題ばかりでなく、かなり高度なものにまで及ぶ。

私にとって「盛花」とはまさに上記のような存在なのだ。だからいけばなを一つの学問と例えるなら、盛花は「基礎いけばな」と言えるかもしれない。茶花 立活・現代花・投入・立華…これらの特徴を持ち、基本的導入部になり得るのは「盛花」だけだ。そう考えると立活だけ習っていたり、現代花だけ活けているより盛花から習い始めた方が、はるかに技術の習得においては効率が良い。また立活から現代花、現代花から投入れという頭の中での切り替えも非常にスムーズだ。

「盛花」がいけばな学の主幹になったから、明治以降、婦女子に短期間で広まったのだろう。これが難解すぎ、専門すぎる江戸の頃の花型のままで、いけばなが今のようにメジャーな文化になれたか疑問である。 桂古流のカリキュラムが師範までに、盛花をしっかりマスターできるように組まれているのは、こんな配慮からなのだろう。

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