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第百十回 働いて稼ぐ

 大阪に行くとその活気にこちらもワクワクしてくる。サラリーマン時代の新宿にいる様な興奮に包まれる。欲望に素直な街、あっけらかんとお金で様々なものを手に入れる街だ。
 私の務めは百貨店だった。そのせいか価格・値段のはっきりしている者が好きだ。いまだに打合せしていると「いくらかかるのか」「いくらもらえるのか」を最初に決める。相手は最初の打合せからスパッと私が聞くので、けっこう驚く。金額を確認しないまま、打合せを進めてよく失敗した。その反省が今の方針に出ている。
 労働には賃金が支払われる。賃金でなくても何かの見返りがあるから、人は働く。対価のつかないものは労働とは言えない。私は流通業なので商売をしなくてはならなかった。あまり売れなかった。私は不得手な分、商売が好きだ。働いて家に帰って日当を女房に渡して酒呑んで寝てしまう。最高の生き方だと思う。シンプルな生活のなんと力強いことか。
 大阪に来て「○○屋」が元気だと思わず顔がほころんでしまう。ホッホッホと揉み手をしたくなる。 薬屋・肉屋・靴屋・菓子屋・瀬戸物屋・花屋・お茶屋。道頓堀の周りには○○屋が多い。

 大阪には展覧会に出品のために行く。大阪では展覧会場で活けこみ⇒関西の先生と懇親会⇒ホテルというコースになる。街中をゆっくり歩くことはない。

 先日は見学だけのために大阪へ行った。出品もせずに大阪へ行くなど10年以上やってない。
 のんびりと街を歩くと大阪が初めての顔を見せる。売り子の威勢のいい声がいい。とても清々しい気分になる。賑やかでついつい覗き込む。
 腹が減った。この後、宴会だから軽く腹に入れておきたい。関西はうどんが美味い。ホテルのフロントに聞くと今井でしょうと教えてくれた。戎橋の先、柳が大きく枝垂れた玄関に今井の看板が見える。入ると昔ながらのうどん屋だ。店は新しく清潔だが懐かしい店構えだ。店内を見回すと客は家族やグループが何組かいる。子供がお年寄りと一緒にフーフーしながらすすっている。祖母と一緒に出掛けた頃を思い出す。わたしはきつねうどんにした。油揚げがやや厚い。透明な汁は全部すすると塩分の取り過ぎかなあと思うが、結局全部飲んでしまう。店内には活気はあるがゆったりしている。幸せな暖かさで満たされる。

 戎橋を渡り左へ。御堂筋を横切り、高速1号をくぐる。アメリカ村というのだろうか、道頓堀とは明らかに違うハードロックな店が並ぶ。帽子を見ているとすぐ店員さんがやってくる。場違いな私が見ていてもにこやかに対応してくれる。

 南堀江のスポーツクラブで汗を流した後、ホテルに戻る。コインランドリーはないかと無理な相談をする。大阪府立体育館のそばの銭湯がコインランドリーもあると教えてくれる。気取ったコンシェルジュよりよほど役に立つ。このコインランドリーが良い。無人なのだが時間設定が細かくて無駄の内容になっている。ここにも商人魂を感じる。人情味というか要求に応える心意気が嬉しい。コインランドリーが終わるまで街を歩く。
 間もなく閉店の店もある。シャッターに手をかけながら通りに向かって最後の最後まで呼び込みをしている。えらいなあと思う。私にあの根性があれば、百貨店でもう少し売り気が伸びたのに。

 朝も早起きしてみた。お掃除している人が多い。暫くすると商店街の店が開店の準備をしている。ラックを外に並べながら「いらっしゃいませ」と声を出している。最初の1秒から最後の1秒まで彼らは働く。その姿勢は必ず実を結ぶだろう。人は同じ商品が同じ値段で売られていたら、熱心な店員から買いたいものだ。

 小知恵を使って大金を手に入れるより汗水流して手にした給料はズシンと重い。働くこと、そして稼ぐこと。「儲かってまっか」といえる人はすてきだと素直に思う。

 

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