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第百十八回 組織と情報

 偉い人と話をしていて「ああ、またこのパターンか」と思うことがある。
 初対面の偉い人が、「この○○を提案した時、役員会ではほとんど全員が反対したんですよ。できっこないってね。でも私には成功の確信があった。やらない道を選ぶのは目の前のチャンスに気付かないからだ。絶対成功すると押し切りました。そしたら結果は見ての通りです。こいつらあんなに反対したのに今じゃ誰も口出しできませんよ。ハッハッハ」という成功談を口にするたび、そんなに手柄を独り占めにしたいのかと思う。良いスーツ着ていても泥臭いと感じてしまう。偉い人は奇襲が成功したような言い方をする。「まさしく桶狭間でした」とうっとりしている。

 多くの偉い人はこういうお話が好きらしく、お付き合いしていると必ず一度は聞かされる。ヒット商品、経営の中枢プロジェクト、企業の組織改革など。偉い人にとってロマンを掻き立てられるのだろう。皆様とても自慢げにお話になる。が、組織の長として恥ずべき行為だと思う。組織がありながら使いこなせず、一人で突っ走るというのは小説などの話であり実際には弊害が多い。

 桶狭間の戦というのを組織面から考察してみよう。 織田信長が今川義元を討ち取った戦だ。日本三大奇襲の一つに数えられる。織田は非常に計算された組織づくりをしていた。前述の社長とは違う。織田は組織を完全に把握し、また部下も織田を信じ行動した。結果、絶妙なタイミングで今川義元のみに的を絞り、倒した。
戦場で情報が正確に行き渡り行動できた少数精鋭の織田軍。一方、情報が正確に行き渡らない大群の今川軍。人数ではなく正確な情報伝達に長けていた織田が勝った戦ともいえる。

 前述の偉い人が戦にいたら、どんなに正しくても現場が言うことを聞かず、負けてしまうだろう。戦では司令塔が倒れたら副司令塔が指示を出し、副が倒れたらその次が指揮を執る。ワントップで戦えるはずがない。

 さて、現代。
 国の政策として情報が行き渡った例と、行き渡らなかった例をそれぞれ挙げてみよう。
行き渡った例としては「クールビズ」だ。温暖化により暑さが一段と厳しく湿度も高い日本の夏ではネクタイはやや酷だ。仕事帰りのサラリーマンも少しネクタイを緩めている人が多い。そのような現状を酌み上げ新しいビジネスチャンスにつなげた。どうすれば良いか具体的な姿を示した。政策で流通業界も消費者も良い思いをした。
 逆に情報が不十分な例としては観光立国ではないだろうか。推進基本法が平成18年にできた。オリンピックも決まった。しかし日本の経済が発展し社会に良い影響を与えるとは言い難い。情報として海外からの観光客が何を求めてやって来るか情報が行き渡っていない。海外から見た日本の魅力とはと尋ねられて答えられる人はあまりいない。海外の人を受け入れる心得も根付いていない。こういう時に具体的な情報が行き渡らないと「見せる風景や娯楽と考えると関西の方が良いのでは」と思ってしまう。

 情報が簡単に手に入る時代だからこそ「今・あなたに・ここで・これを伝えたい」という熱意がとても大事になる。相手の中にしっかり届くよう心を込めて話す。熱を帯びて初めて情報は生きる。
 いけばなには多岐にわたる情報がある。口をきかなくて良ければ、何も言わないで終わる稽古だが話すとなればいくら話しても伝えきれない。
 桂古流の研究会はしっかり板書する。図解もすれば文章も書く。花型から技術論、花材の科目に原産地、いけばなから離れて現代美術、デザイン、色彩、年中行事、短歌や陰陽道。果ては床の間や和食、民話にまで及ぶこともある。
 桂古流は組織だ。たとえ私がいなくても桂古流は組織として何事もなく活動を続いていかなくてはならない。そのためには一人一人が正確な情報を持ち、行動できなくてはならない。組織は個では動かない。面、塊で活動してこその組織だ。一門の一人一人が桂古流の代表となって、自作が桂古流の代表作のつもりで活動するよう呼びかけている。
 然るべき人が正確な情報に基づき、一番良い機会に行動すること。当たり前なのだが、その当たり前が難しい。

 

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