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第百二十七回 うまいラーメン屋にはなぜ行列ができるのか

 「龍馬がゆく」の中には司馬史観といわれる独特のエピソードが散りばめられている。
 幕末は司馬遼太郎のホームグランドだ。対談の際、ドナルドキーンですら幕末に関しては沈黙したほどだ。本当に細やかな逸話も記憶していたのだろう。
 岩ア弥太郎のエピソードがある。弥太郎は会議が大嫌いだった。会議などは能無しが集まっているだけだ。お茶が小便にかわるだけで本当に無駄だ。というものだった。この逸話は私の人生を変えた。私もそう思った。常々そう思っていた。このエピソードに出会えた時、本当に幸せだった。

 岩ア弥太郎のような能力はないけれど、私の会議嫌いは恥ずかしいくらい有名らしい。他流の大御所から「お父様も会議中に良く寝ていたけど、貴方も会議は苦手ねフフフ」などと言われる。申し訳ないが会議とミミズと椎茸は苦手である。
 私の携わった会議は退屈な結果になることが多い。どうしても意見が丸くなる。例えば「AA」という魅力的な意見が出たとする。会議とは魅力的なAAを実現するために、どうすれば良いのか知恵を絞るところだ。しかし別の人は「BB」という反対意見を出す。これではAAと対立してしまう。結局「AB」という現実可能だが芳しくないところで落ち着く。政策など私たちの生活に関わるものならば、幅広く賛同を得られる内容に議決して欲しい。 が、イベントは違う。ある程度とんがった一人の意見を尊重しないと魅力がなくなる。意見を言う人は「AA」を「AAA」にしなくてはならない。方向がはっきりしないと何をしたいのか分からないものになる。しかし私の出る会議は「AA」を推すと反対する人が「○○団体から苦情が…」と言う。結局没になる。退屈になる。瞼が閉じる。寝る…という算段だ。

 うまいラーメン屋さんは何故行列ができるのか。 それはうまいラーメンが食べられるからだ。理由は単純である。上手いラーメン屋はラーメンが美味いのだ。他では出せない美味しさだから行列ができる。マスコミが飛びつく。ラーメン屋は亭主の舌が命だ。AAという他店には出せない美味しいラーメンを作れるラーメン屋は流行る。ABというありきたりの味のラーメンでは客は来ない。ラーメン屋はうまいラーメンを作ることこそ存在意義がある。さらに言えばマーケティングが大事だ。若者の街ならお腹を満たすボリュームが必要だろうし、ファミリー層ならば健康志向がウケるだろう。理由はあるが美味いラーメン屋が流行るのである。不味いラーメン屋は流行らない。同じ理屈で、強い横綱は人気があるし、旬の俳優さんは注目を浴びる。
 昔、私は習い事をしていた。教室はとても良い環境だった。が、先生が協会での活動に熱心すぎた。「今度先生は○○協会の理事になりました」「今度は○○という団体の講師になりました」と言われた。ああその協会では偉くなっているのだという思いと共に、そんな協会どうでも良いからきっちり教えてほしいと思った。教室あっての、私たち生徒あっての先生だろうと思った。生徒にしてみれば肩書なんかどうでもよく、教室に先生が不在で代稽古ばかりなのが不満だった。いま自分を見返してみて冷汗がでる。

 展覧会ならば観客の求められている作品を出品することに主眼を置く。教室ならばお弟子さんの求める花を教える先生になる。生徒さんから求められているニーズに謙虚に耳を傾ける。需要のないものに価値はない。これは流通経済だけでなく伝統文化も同じだ。私は今後も古典花に主軸を置く。お弟子さんから求められているからだ。桂古流の家元として当然だし何より大事なことと考える。他の何ができるより求められていることだと思う。

 内輪や専門家がよくても、一般の人が受け入れられない教室や有料催事は存在意義が問われるだろう。興行として成り立たない芸術作品は個人ですべきだし芸術祭に出展するために作られるべきだ。
 宮崎駿映画は宮崎駿のタッチがあってはじめて宮崎駿映画。
 寅さんは男がつらいよではじめて寅さん。
 興行として成り立つには、そこに国民の需要があった。売上はニーズに合っているから上向く。いけばなをあまり高みにあげず人々が手軽に習える存在にしなくてはならない。
 前にも書いたが昔の大先生が「いけばなも商売繁盛で行きましょう」と言った。私はこの一言で大好きになった。
 作家の?先生も自分の作品についてはほとんど話さず、いかに稼いで生活していくかについて切々と語る。生臭いようで「いけばな以外はやりません」と宣言しているようなものだ。お弟子さんを顧みない指導者より真剣にいけばなを考えている。

 

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