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第百三十三回 花材の遠距離運搬

 今まさに展覧会の花材を積んで新幹線に乗っている。関西の展覧会へ向かっている。今回は二人の助師さんが付いてくれている。荷物の分担は、私が花器の入ったカートを転がし、一人の助師さんが花材を、もう一人の助師さんが花台その他を運んでくれている。家元本部から浦和駅アトレ口までは150mしかない。エレベーターも各所に設けられ本当に楽になった。けれど遠隔地への移動はやはり大変だ。リスクも伴う。
 私は必ず全ての荷物を自身で運ぶ。あげ花はお願いするので返送されてくることもある。しかしいけ込みは手荷物で持ち込む。二つ理由がある。昔、宅配便で荷物が届かずに活けられない人を見たことがある。花材が届かないほど切ない事はない。何もできずに時間だけが過ぎていく。もう一つはカメラマンのアシスタントをしていた時の経験からだ。カメラマンはカメラを決して離さない。移動中もカメラはカメラマンが運ぶ。自分の一番大事な道具は自分で責任を取るという性分の人が多かったからだろう。

 まず花材の運搬について。祖父は作品集「華盛の生花」の巻末に地方での花展では現地調達で行くと記している。私にはとてもできる芸当ではない。関東と関西でどのような花材の違いがあるのか、こちらの希望通りの花材が調達できるか、同じ花材でも地域で差ができるのどうか、など不安でなかなかできるものではない。

 運搬に気をつける事がいくつかある。まず枝葉が萎れないように気を配ること。水につけるのか湿らすのか密封するのか…どの方法にするか選択する。今回はニシキギを使う。長いままだと葉が萎れるので、短くて済む活け方を考えた。やはり三重切の花器にすれば極端に長くなくて済む。葉は出来るだけ少なくして根元を濡らす。あとは空気に触れないよう、かと言って湿り過ぎないよう包む。湿度を間違えると現地でグショグショニなり活けられないこともある。根元濡らして上からビニールで覆い他の部分は乾いたもので包むのがいい。
 花器も考え方で変わる。唐銅は割れる心配はないが重い。竹花器は色々なバリエーションができるが割れる可能性がある。陶器は一番危険だ。こちらが注意しても他から硬い物をぶつけられれば一巻の終わりである。陶器は地方への運搬には適さない。今回は手荷物で運べるサイズの唐銅か、竹にするかで悩んだ。竹は乾燥しているところが嫌いなのでデパートの空調がキツイと夜中に割れる。夏場は避ける。今回は10月初旬で空調を入れない時期なので竹にした。

 移動にはカートを使うことが多い。車輪が付いているので転がせるし、自立してくれて便利だ。飛行機などの場合は完全梱包だが新幹線ならばそこまではしない。
 昔、先代華慶が日本いけばな芸術北海道展に出品の際、枝を曲げすぎてしまった。その枝が折れると困るので客席に持ち込もうとしたら職員に止められた。とても大事な方のお見えになる展覧会なので困ると言った。この場合の「大事な」って分かって下さいますよね、というと職員はアッと言い「この枝は決して粗末にしませんので、こちらで預からせていただきます」と持って行ってしまった。札幌空港に着き、荷物の出てくるところで待っていると、なんとその職員が横の扉を開けて出てきた。そして「飛行機の中でずっと私の膝の上に置いておいたので大丈夫だと思うのですが」と枝を手渡してくれた。私は恐縮し職員の丁寧な対応に感激した。その枝を受け取り大事に運んだ。いけこみも無事に済み妃殿下ご巡覧の際もピンとしていた。

 古き良き時代のお話しである。

 

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