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第百四十二回 忘れられないフレーズ

 小室等作詞、吉田拓郎作曲という2人の天才によって生まれた歌に「だけど泣かないさ」がある。川谷拓三が歌っていた。この曲は最初の2フレーズだけで十分価値がある。この2フレーズにすべての思いが込められている。

「いつまでも友達でいよう」とか
「大切な思い出を作ろう」とか
そんな綺麗ごと言う前に
誰か一人のために戦ったことがあるか

「またいつか会える日がある」とか
「しあわせは必ずやってくる」とか
自分の手を汚すこともなく
借りてきた理屈で何を語るのか

 この曲は普段おもいだすことはない。ある日突然ガバッと私の心をとらえる。不意を突かれて私自身驚く。細々した規則やその場限りのモラルに力を得て声高に話す人々。他人の口のうるささに耐え兼ね、理想を見失う人々。それを冷静に見つめ、いい気になっている理屈に心の叫びをぶつける。

 この歌詞に、時に守られ時に叱られてきた。浮かれているときにこの曲を聞けば「私は今まで何をやって来たのだろう」と反省させられる。逆に落ち込んで一人になりたい時は暖かく包み込まれる。

 人の正義のはかなさに私たちは気付かねばならない。10年前20年前に是と言われていたことが非となるものを何度となく見てきた。その場限りの正義のせいで大事な友人に会えない目に遭った。
 人は罪を犯したら償わなければならない。社会ルールを違反したらペナルティがある。心を入れ替えて償うことだ。その一方で知人が過ちを犯したとき罪を償ったのに絶交というのはどうなのだろう。犯罪でなくても仲間が挫折を負った時、周りからどう思われようが手を差し伸べることができるだろうか。自信はないが仲間が公に出てこられなくても敢えて会いに行く私でいたいと思う。

 三国志では曹操を取り逃がした関羽を軍法によって処刑しようと孔明が主張した。だが張飛が何とか死罪はさけるように許しを請う。卑近な例ではビートたけしがフライデー襲撃事件で表に出てこられなかった時にゴルフに誘った長嶋茂雄がいる。勝新太郎の不祥事で頭を下げ続けた中村珠緒。あのグループもそのコンビも仲間の失敗を乗り越えて、今がある。

 被害者は一生許せないこともあるだろう。忘れることができないこともあろう。それは被害者や被害者の家族といった当事者ならば当然である。受けた犯罪のレベルにもよる。殺人や暴行など重大犯罪は論外だと思う。略式起訴で済まされる犯罪で当事者でない一般人まで犯罪当事者から一斉に手を引いてしまう世相に危機感を感じてしまう。一つの失敗によって永久に交流を抹殺してしまうような社会への恐怖を覚える。付き合いを切るのは簡単である。如何に仲間として再び迎え入れることができるか、人の度量が試されている気がする。

 かつて日大芸術学部の教授が「炭鉱に行くカナリヤは危険が近づくと鳴きます。君たちは世の中のカナリヤになりなさい。力はないかもしれないが世の中が全体で危険な方向に向かいそうな時は鳴くことで回りに察知させなさい。マジョリティの居心地のいい意見でヌクヌクしているのではなく、少数派が訴える真実、それを表現する芸術家でいてください」と語った。

 今回のコラムは瀬戸際の内容になった。納得できない人がいるのも承知で書いている。鬼平犯科帳で平蔵が「土手のヒバ人に踏まれて一度は枯れる 露の情けでよみがえる」と口ずさむ。仲間に対して露の情けをかけられる存在でありたいと思う。

 

 

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