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第百五十三回  毒舌 〜ブラックユーモア〜

 日々の暮らしに窮屈さを感じることがある。私は〇〇禁止とか〇〇してはいけませんという標語が苦手だ。万民のため作成されたその手のルールを頭では理解しながらも抑制された世界に圧迫感を感じる。禁止の張り紙だらけの施設やお店に行くとそれだけで疲れてくる。

 いけばなの家元は、いけばなを活けるのが仕事なので他の事にそれ程関わっていることはない。政治は政治家に、病気は医者が診れば良いのであって私たちは与えられた仕事を淡々とこなせばいい。私たちは聖人君子ではない。四六時中良い子にしていられない。
  いつもどこかで誰かが失敗やインチキや卑怯なことをしてしまう。普段は良い人でも後ろめたい行為に引きずられる事もある。犯罪までいかなくても人目を避けたい時があったりする。それを誰かが神妙な顔で非難している。バカバカしい。傷ひとつない珠玉の人生などどこにもない。みんな何かしらの傷がある。非難している人に言ってやりたいと思うが言えば自分に返ってくる。つくづく面倒な時代である。
  毒舌というの窮屈な時代をやり過ごす一つの手段だ。毒舌ほどセンスを求められるものはない。毒舌には3つの要素が不可欠だ。

  1つは笑わせる事。笑いがないと愚痴になってしまう。普通の人の感覚で「こんなこと言ったら嫌われるのではないか」などという発想は飛び越えて「この部分は変だよね」「これは笑える」というポイントのみにしぼり込んでいく。あからさまに、大らかにする。できれば品のある話術が好ましい。一休が正月のめでたい時に「門松は冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし」と歌った。みんなが浮かれている時にピシャリと毒舌を吐くのは一休らしい。縁起悪いのにフフフと笑ってしまう。新春初めて高座に上がった立川談志が寿ぎも述べず、いきなり「人間はなんで生きているのかねえ」と呟いた。泉谷しげるは大晦日に紅白歌合戦に初めて出た時「テレビ・ラジオの向こうで寂しく過ごしている奴ら、帰りたくても帰れない奴らに歌った」と語った。言葉は意地悪く聞こえても思慮や愛がある。だから笑える。

 2つ目はスカッとさせる事だ。カタルシスが得られなければ毒舌ではない。強大な権力に楯突くのはとても痛快だ。真正面から力でぶつかると大事になるので毒舌でいなしてしまうのも爽快感につながる。海援隊が所有していたいろは丸と紀州徳川藩所有の明光丸とぶつかった。坂本龍馬らは万国公法を用いて紀州藩に賠償金をせまった。紀州にしてみれば問題がよく分からないまま大金を要求された。タチの悪いゴロツキに因縁を付けられているような状況に紀州藩は困り始めた。公明正大な判決を求め長崎奉行所に間に入ってもらおうとした。海援隊にすれば奉行所に介入されるのは面倒なので長崎の花街で「船を沈めたその償いは金を取らずに国を取る」という毒の効いた謡を流行らせ世論を味方につけた。御三家に浪人集団が組み付いた姿に判官びいきも手伝って、長崎中が海援隊を応援した。結局紀州藩と土州藩で交渉し8万3千5百両あまりの賠償を支払うことで決着した。普段では物を言えない偉い方々を歌や芝居に仕立てて揶揄して楽しみたい心理を見事に利用した。毒舌と社会の関係を考える上で大事なエピソードだ。

  3つ目は納得させる事。裸の王様はどうして裸だったのか。言った子供より狼狽する大人達にこそブラックユーモアが存在する。不必要な事にこだわっている人、過ぎ去ったルールにしがみついている人を笑い飛ばすだけの新しく魅力的な理論が必要である。周りが油断している時に中央突破して唖然とさせる姿がブラックユーモアの真骨頂だ。相手に考える隙を与えないスピード感、「なるほど」とひらめくよう真理を構築する。人はある程度、上から目線でいながら明るくカラッと言われると腹も立たず仕方ないなとなる。毒舌は、言いたいけれど言えない心理、分かっているのに皆黙っている不都合を陽にさらして仲良く笑うきっかけだ。映画ホームアロンで主人公のケビンが仲良くなった老人に人生相談のアドバイスをする。生意気なセリフにブラックユーモアを感じる。こましゃくれた可愛らしさが存分に発揮される。

  毒舌と言えば北野武や筒井康隆を外すわけにはいかないが、毒蝮三太夫と美川憲一も忘れてはいけない。おいババアで始まるラジオは必ず長生きしろよで締めくくる。コメントで言いたい放題の美川が帰り際にレポーターの体調を気遣う。長年活躍する毒舌芸人には優しさと人情がある。

  毒舌はセンスある選ばれし人が言うのが良い。周りは黙っているかせいぜい笑いながら頷くぐらいの反応が好ましい。SNSで匿名を良い事に多勢に無勢で誹謗中傷するのは間違っている。最近特にその傾向がひどい。タブーを破る毒舌家もかつてのマスコミ全盛の時代ほど鋭い言葉が出ない。話し手と聞き手がしっかり分かれていた頃が懐かしい。ひと昔前の忘れられない毒舌、言いそうもない大人の毒舌はすごい。芸能人の恋愛スキャンダルが賑わせていた時、ラジオ番組の中で話題になった。アシスタントが「こういう事は良くないですよねえ」と在り来たりのコメントを言い同意を求めた。パーソナリティは「最近賑やかな事で毎日楽しませて頂いております」と応えた。アシスタントは予想外の返答、ブラックユーモアに絶句した。その慌てぶりも含めて楽しんでいる老獪さがパーソナリティあった。素人には出来ない芸に大笑いした。さすが永六輔である。

 

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