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第百六十三回: いってらっしゃいませ

 次男が入学しなければ二度と関わることはなかったであろうし、同窓会「薫風会」会長を引き受けることもなかった高校、私と次男が卒業した高校がある。
 昔は薫明理事長、正己校長の元、ベテラン・若手の精鋭教師陣が揃っていた。組織のトップから末端まで「苦しいのは我慢しろ。希望の進路に行かせてやる」が合言葉だった。現役で大学生になれたのはこの高校に行けたからだと感謝している。50歳を過ぎればだが。

 さて、当時の学校の中でも体育の教官はとても怖かった。その中で坂上先生怖いながら話が面白かった。学校ではなかなか教えづらい(まして男子校では)女の子との付き合い方、どういう風に大切に接してあげるか等々、経験を交えてあけっ開げに語った。また教師という立場、職種についても良いこと、つらいこと、率直に伝えてくれた。
 彼がある時「君たちは僕より偉くならなくてはいけない。僕はこの高校では君たちに色々と教える。でも卒業する時、君たちは僕より学力の高い、偏差値の高い学校へ行くだろう。そして社会でも大きな影響力を持つだろう。そういう君たちを誇らしく思うし、卒業の時いってらっしゃいませ、という思いで送り出す」と言った。そして「愛と青春の旅立ち」の鬼軍曹の話をした。

 つい数十年前は、世界どこの国、どんな業種でも先輩は厳しいものだった。愛と青春の旅立ちはアメリカの士官学校を舞台にした映画だ。1980年代リチャードギアの代表作だ。若者を鍛えあげていく鬼軍曹と、苦しみながらシゴキに食らいついていく候補生を描いていく。候補生は無階級なので軍曹には絶対服従だ。しかし卒業時には士官となる。下士官より階級が上になる。卒業が決まった時、鬼軍曹は部下になる。ラストシーンでは、卒業生一人一人に「お祝いを小尉殿」と声をかける。卒業生は1ドルを渡しながら「ありがとう軍曹」と応える。すでに鬼軍曹でなく敬語しか話さない。
 この「お祝いを小尉殿」を坂上先生は「いってらっしゃいませ小尉殿」と私達に言った。私にはこの「いってらっしゃいませ」がとてもしっくり来る。いってらっしゃいには喜びとともに二度とここには戻れないという惜別が少し含まれているような気がする。新小尉になった教え子たちに対し、軍曹は「世の中には猛者がたくさんいる。私の訓練くらいで満足しないでほしい。」という心配と「あれだけの鍛錬を積んだんだ。しっかりやっていけるさ」という期待もこめられているように思う。

 師範・正教授・国会司のお免除を渡す時、小さな声でおめでとうと祝福する。そしてこれからも頑張って下さいと伝える。それぞれの資格を取得された方はとても誇らしげに見える。親先生や私が手助けできることは限られてくるし、いずれ人を教えるようになれば自立せざるを得なくなる。
 家元として祝辞を述べている時、気持ちは「いってらっしゃいませ小尉殿」という坂上先生、そして鬼軍曹に重ねている。

 

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