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第百六十五回: 盗め!盗め!!盗め!!!

 少し前に海外でニュースになった。食品を窃盗して捕まった犯人がいた。金もなく生きていくためには盗むしかなかったと判断して判決を覆し、無罪を言い渡した。非常に難しい判断だったと思う。盗まれた店も可哀そうだ。命と経済、本能とモラルのすき間の事案だ。盗むというのは悪だが危険な魅力に満ちているのは何故だろう。物乞いするのでなく知恵と技と体力を以て手に入れる行為は犯罪だが仕事だと思う。「鬼平犯科帳」にはしばしば良い盗人悪い豪商が出てくる。金をとられていい気味だと思う時もあるし、見つかっても抵抗せず「恐れ入りましてございます」と両手を差し出す場面も多い。立派な盗人には「殺めず犯さず貧しき者から奪わず」の掟がある。これは作者の池波正太郎が株の世界で生きてきたことと無関係ではないだろう。表向きは奉公しながら株で月給分は稼いだという。その金で食道楽や遊興にふけり一方で剣道を学んだ。長谷川平蔵の若かりし頃、本所の鐵三郎と重なる。まさか盗みはしないだろうが、戦前の株や相場は情報や客の奪い合い等かなり荒っぽかったろう。盗人の掟はこのころの経験から発想したのかもしれない。

  私の子供の頃、江戸川乱歩を読みテレビで「ルパン三世」を見ていた。捕まえるより鮮やかな手口で逃げ切るダークヒーローに酔いしれた。怪人20面相もルパンも貧しい者をターゲットにしない。大富豪から奪ってこその大盗賊だ。昔、小学校に警察音楽隊が来て演奏してくれることになった。素晴らしい演奏だった。事前に何かリクエストがある人は言うようになっていた。私は迷わず「ルパンのテーマ」と書いた。演奏はしてもらえなかった。私以外にも希望者がいたらしい。「犯罪者を美化した番組のテーマは警察音楽隊としては演奏しない」ということだった。私はこの正直な表裏なく真摯に応えてくれたエピソードが今でも好きだ。警察にしてみれば銭形警部こそ正義のヒーローでありルパンは悪者なのだ。子供のリクエストを大目に見ず社会人として扱い、誇りを貫いた警察もまた天晴である。恋愛も盗む要因がある。私は大学生だった家内と付き合い出し卒業と同時に結婚した。家内の両親にしてみれば育てるだけ育てて私に盗まれたようなものだ。私も親になって自身の結婚を「かっさらうように結婚したな」と感じる。家内の両親が許してくれたことに感謝しなくてはいけない。

  いけばなを始め藝の世界は盗み合いだ。良いアイディアを持っていても上手に発表できなければ後から思いついた人の作品になる。先に出た発想を盗作する。珍しいことではない。ある時父華慶が出品した作品が非常に良い評判を得た。内外から「さすが華慶先生、立ち活けも現代花もこなされるお家元ですね」と称賛された。その数か月後に父と瓜二つの作品を他流の先生が発表された。桂古流の幹部は憤り、それは華慶先生が先に発表したというべきですと声が上がった。が華慶はまあまあと穏便に処した。「作品を発想する時、偶然同じ形を思いつくこともある。敢えて真似したのならばそれ程魅力的な作品だったのだろうし次回は真似できないものを作ろうと思う。」と涼しい顔をしていた。

 祖父六世華盛は「私の技をどんどん盗みなさい。」と言っていた。お弟子さんの前で分かるように指先を開いて活けていた。技や知識を隠すことなく淡々と手直ししていた。いつしか祖父は魔法の手と言われるようになった。最近私を「魔法の手」と呼んで下さる人がいる。祖父の足元にも及ばないのに恥ずかしい限りである。祖父のようにどんどん盗みなさいと言えるように、私もせっせと技を貯めなくてはいけない。

 祖父はお弟子さんに技を盗ませ、代わりにお弟子さんの心を盗んだ。

 

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