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第百七十一回: 大人の「美学」にドキドキする

 伊勢丹宣伝部で多大な影響を受けた先輩が数人いる。今回ご紹介するのは小柳さんだ。早川さんがスピード、寺島さんがユーモアと照れだとしたら小柳さんはスタイリッシュが持ち味だ。音楽とファッションを掛け合わせた独自のプロモーションで伊勢丹の新たな魅力を開拓した。当時最先端だった坂本龍一、エポ、スウィングアウトシスターに着目しコンサートやキャンペーンを企画して流行に敏感なお客様を伊勢丹に惹きつけた。当時高校生大学生の女子をターゲットに絞ったエリアが新宿店の本館2階にあった。ファッションの伊勢丹を強烈に印象付ける「シンデレラシティ」だ。

 小柳さんは自身の持っている知識や趣味、感性をそのままシンデレラシティに投入した。その一つにシンデレラシティの会報誌「プレスビス」がある。この会報誌は売り場が片手間にやっていたわけでなく、宣伝部が制作し小柳さんが斬新なファッションメディアとして取り組んでいた。30年前バブル絶頂期に新曲をリリースする際、レコード会社の営業担当者がデモテープを持ってきた。プレスビスの音楽コーナーで紹介することは、大げさに言えば「OH!エルくらぶ」で田中康夫や南美希子が話題にする程の影響力があった。

  ここで興味深いのは伊勢丹社員でありながら小柳さんは売上向上の施策はしなかった。シンデレラシティに多くのファンを作ること、最先端でいること、これが小柳さんの行動指標だった。小柳さんの考え方に共感した多くのレコード会社から様々なジャンルのデモテープが届いた。小柳さんは一回聞けばそのデモテープが使えるかどうか判断される。小柳さんの机の上には未発表のカセットテープが積まれていた。しばしば私に譲ってくれた。頂いたテープを聞いてしばらくすると、テレビやラジオから「今週の新曲です!」と紹介された。小柳さんのお陰で流行の先端を歩いているつもりになった。

  小柳さんが楽しみながら進めていた業務は、伊勢丹が原宿や渋谷のショップに負けない売場をつくることを目標にしていたことに、見事に応えていた。小柳さんがファッションショーを担当していたのは音楽イベントの前だろうか。宣伝部に四方喜朗を始めサルインターナショナルのスタッフが出入りしていた時代だ。小柳さんは宣伝部の後、伊勢丹からバーニーズニューヨークに活躍の場を移した。

  2021年ローリングストーンズのドラマー、チャーリーワッツが亡くなった。音楽関係に詳しい小柳さんが紹介したエピソードは次のようなものだった。
 ある時コンサートが終わり街に出たミックは翌日の朝方にひどく酔っぱらって帰ってきた。ミックは仲間が止めたのにチャーリーの部屋へ電話をかけてこう言った「“俺のドラマー”はどこだよ?」すると電話から約20分後、チャーリーはヒゲをそり、タイを締め、サヴィル・ロー仕立てのスーツを着た姿でミックの部屋に現れた。そして彼に強烈なパンチを喰らわした。
このチャーリーワッツの美学をかつてのプレスビスの音楽記事の様にSNSで語っていた。ファッション、音楽、美食、地域で言えば香港、福岡。今も昔も自身の興味の向くまま発信し続ける小柳さんの美学。30年前の解答を見せてもらったようで久しぶりにドキドキしてしまった。

 

 

 

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