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第百八十三回: 懲りる人懲りない人

 久しぶりに辞書を引く。昭和40年代の旺文社の国語辞典、私より年上である。今回のテーマを調べる。こりる〔懲りる〕「前の失敗を悔いてあとを慎む」とある。〔懲〕には「こらす。こらしめる。こりるように制裁を加える。懲役、懲戒、勧善懲悪」と記されている。法曹界、あとは時代劇のヒーローを思い浮かべる。

 この「懲りる」という語は祖母が口にした言葉だった。みっともない昔話なのだが子供の頃、鼻の孔に物を入れるのに執着した。

 記憶にある初めの失敗は赤目柳の芽を入れた事だ。表面がツルツルの皮で覆われていて押し込むとスイスイ入っていった。入口から3センチほど入れるとピタリと止まった。そしてそれきり動かなくなった。叱られると思い慌てたが事態は好転せず、仕方なく祖母のところに行った。祖母は急いで耳鼻咽喉科へ私を連れて行った。 優しい女性の先生が細いピンセットで引き抜いてくれた。新鮮な空気が一気に鼻腔を抜けた。ホッとする私を見て祖母は「まったくお前はバカだね。これに懲りてもうするんじゃないよ」と頭を撫ぜた。文字では厳しく見えるが祖母の声には困惑と呆れと可笑しみが含まれていた。私はまた繰り返しても平気だと思った。

 次にチャレンジしたのはヤマト糊の黄色いキャップである。赤目柳より大きく硬く手強かった。少しづつ痛いのを我慢して押し込むと幼稚園児だった私の鼻の孔に何とか収まった。しかし鼻の粘膜を傷つけたらしく鼻血が出始めた。さすがに怖くなり泣き始めた。祖母は異変に気付きまた耳鼻咽喉科に連れて行く羽目になった。治療には怖い男性の先生が叱りながら取り出してくれた。祖母は「何度も何度も。なんでお前は懲りないんだろうね」と嘆きながら鼻の切れた所にオロナインを塗ってくれた。こんな経験からか「懲りる」と言う音には祖母の温もり、暖かい空気を感じる。

 バブルガムブラザースというファンクミュージックを流行らせた音楽デュオがいた。1990年にWON’T BE LONGがヒットした。お洒落で格好良く大人の駆け引きが満載でバブル期を思いきり盛り上げ楽しませてくれた。解散した後ブラザーコーンは腎疾患となりブラザートムは心筋梗塞を起こした。復活して11年ぶりに出した曲は「懲りないオヤジの応援歌」というものだった。歌詞は相変わらず笑いに満ちたもので、自分たちの病もネタにした。

 懲りないという点では私も懲りない方だ。仕事を進めていく上でいけばなを、桂古流を、どう伝え、どう広めていくかという最終目標はそのままに他のことは懲りずに続けていく。普段のお稽古でも教え方を変えて、教場の階数を変えて、主たる指導も徐々に白龍が加わり、家元本部を少しずつ時代に合わせていく。すぐに答えは出さなくて良い。変革を止めない事が大事だと信じる。

 出品する花展も手当たり次第に参加するのではなく、桂古流が最も存在を示す場はどこなのか考える必要がある。 百貨店が展覧会場として機能する時代は都内では終わりつつある。生花商、華道具店も高齢化が進み、後継者がいない処も目に付く。困った問題ではあるが、いけばなの歴史550年の中では取引先のない場合がほとんどだった。古文書を眺めながら「何とかなるさ」と気楽に構えている。私はやはり懲りない性分らしい。もう鼻には物を詰めないが。

 

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