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第百八十六回: 前の立場、今の立場

 40才で家元になって以来、その日その日の仕事をこなすので精一杯だった。あまり立場にこだわらず目の前にある仕事は何でも喰らいつくようにこなしていった。私にとって一番の仕事は「教場でお花を教えること」なので桂古流・新藤花道学院の業務が主軸となる。それ以外のお仕事は差し障りのない範囲で承るようにしている。

 埼玉県・さいたま市の華道団体の事務局は、桂古流が一手に引き受けている。優秀な方々が事務局業務を支えている。私が事務局に携わるようになって14年が過ぎた。会議の進行や渉外はしてきたが、それは事務的内容を知っているからと受け止めていた。中枢執行部に就くのはずっと先のこととボンヤリ想像していた。

 突然、頭から冷や水というか氷をかけられたように状況が変わった。2022年より埼玉県の理事長とさいたま市の会長に就くこととなった。いけばなの団体は仕事のようなボランティアのような何とも言えない立ち位置になる。展覧会が開催されれば出品する生徒様もやる気につながる。桂古流と共に活動している流派の人々が「入会して良かった」と思って頂ける会になれるだろうか、などと立場が変わると考え方も全く変わる。

 松井證券中興の祖と言われる松井道夫が岳父、武から言われた言葉に「おやんなさいよ。でもつまんないよ」という一言がある。武はバブル期に他社が規模を大きくしても堅実な経営を守り通した。道夫はインタビューで「社長になられてどうでしたか」と尋ねられた時「つまらないですね」と応えている。私はこの道夫と父、華慶が重なる。古典花も上手で流派の運営も順調で埼玉県いけばな連合会理事長まで上り詰めながら、父が楽しそうに働いていた記憶がほとんどない。この2人は境遇も似ている。全く違う業種から結婚を機に婿として新たな世界に飛び込み成功した。性格も似ている。自身の希望や欲求を後回しにでき、行動の基準が自身を持ち駒のように突き放して見ている。どこに置きどのように進めば周りの人々が幸せになれるか、自然と考えることができる。かと言って前職が嫌いだったわけでない。むしろ愛着があった。折に触れ前職の思い出話を懐かしく話していた。前職が好きと言うのはとても大事だ。理由は色々あるだろうが、魅力を覚えやりがいを感じた時期だったと思う。前職に愛着と誇りがあるのでそこで学んだことを生かして働くことができる。フワフワとのぼせ上がることもない。新人の苦労した経験があるからこそ、そして理想に燃えた時間があるからこそ次の立場で成功したのだと思う。人はジャンプする前に屈む。屈んで我慢することを知らないと飛躍できない。

 韓流ドラマを見ていると主人公が分不相応な立場に就くことがある。戸惑っている主人公にに対し師匠は「自分には分不相応な座を与えられたと思うだろう。それには何か理由があるはずだ。その座でやるべきことがあるのだ。命を懸けて最後までやり通すのだ。人々の信頼にお前も信頼で応えろ」と檄を飛ばし励ます。

 立場が上がれば上がるほど相手のことを考えなくてはならない。自分の笑顔より相手の笑顔を優先する。当然だし義務だと思う。思い通りの仕事ができないという点では詰まらないだろうが、仕事へのモチベーションは同じだと思う。自分ができることで人々を幸せにしたい。という基本がしっかりしていれば、立場が変わり職が違っても人は仕事に前向きになることができる。

 

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