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第百八十九回: 異空間に身を置く

 じっとしていると詰まらない考え事ばかりしてしまう。忙しい人間が暇になると何をして良いのか分からない。目が悪くなってきたので寝る前に文庫本を読む習慣もなくなってきた。暇と言っても一日中ではないのだが、スッポリ抜けた2〜3時間を人々はどう埋めているのだろう?デパートの中をグルグル歩いているとすぐに時間が経つとか、映画見に行けば、あっという間に過ぎるという答えが一般的だろうか。でも地元だと知り合いだらけで「あら、家元が一人で映画見ている」と言われるかもしれない。食事や喫茶店もお腹の都合がある。美術館があれば良いけれど、移動が面倒だったりする。

 私にとっては散歩が向いているかも知れない。外山滋比古はかなり速いペースで歩くと良いと記している。私もかなり早いペースで散歩する。「家元が走っていました」と心配して私の家族に報告下さる方もいる。あれは早めのスキップです(汗)。コースは普段歩かない所を選ぶ。滅多に見ない景色、街並み、人の顔をボーっと眺めながら移動する。都内だと大通りやランドマークを目当てにスキップするが地元だと住宅街の広くない道にする。信号待ちしている車の人はこれからどこに行くのだろう、お仕事かなと考えながら散歩している。

 家内に美容室の予約を取ってもらう事もある。 アシスタントの方と他愛ないお喋りは楽しい。若い世代の興味のある物を教えてもらう。洋服や行きたい所、音楽、食べ物などをちょっとした時間に聞いてみる。入りたてのアシスタントの方は興味津々で尋ねてくる50半ばの男性客に戸惑いながら応えてくれる。こういう機会を逃さないよう色々覚える。私にジャニーズやK-popの話をしてくれる人はかなり貴重だ。

 家元教室と言ってもあまり敷居を高く感じる事はないと思う。生徒様も忙しい中やりくりして通ってきてくれている。出掛ける準備に1時間、移動に30分として往復1時間と仮にしよう。教室のお稽古に2時間としてもいけばなに通うのに4時間も必要となる。私の予定外に暇になった2時間ではとても足りない。生徒の皆様は大事な予定として最初からその時間を組んで下さっている。その思い、期待に見合う魅力を提供できているか。仕事帰りのお稽古に通ってくれる人の「疲れてでも来たい」という思いに応えているか。

 いけばなをお稽古したからと言って、お腹が満たされる訳でもなく仕事が片付く訳でもない。衣服や装飾品のように身に付けられる訳でもない。それでも通ってくださる方の望んでいる事とは何なのか考えなくてはならない。人それぞれなのは言うまでもないが「日常を忘れることの出来る空間」なのだと思う。社会的に成功していようと経済的に恵まれていようと、日常生活はストレスが溜まる。私などは全てを放り出して忘れてしまいたい時もある。そうなる前に手を打たなくてはいけない。

 いけばなを活けている時間はささやかな異空間であって欲しい。可愛らしい花、歴代家元が考案した型に向き合いながら無心に活ける。大人になって無心になる時間や空間はとても大事だ。

  茶の湯のお稽古場に比べていけばなの教場は無機質だ。私は何もない、この教場が好きだ。撮影前のスタジオ、公演前のホールの様だ。これから何が始まるのだろうという静かな興奮が身を包み込む。無から始まり有を作り上げて無に戻る。その間、教場という空間備品時間はすべて生徒様のものだ。白銀のゲレンデにシュプールを描くように思いのまま枝と戯れるが良い。私が感じる興奮をこの教場が生徒様一人一人の大事な異空間となっている事が嬉しい。

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