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第百九十四回: 指(爪)

 冬場は指先がガサ付く。指の表皮がささくれ立ち、乾燥して衣類に引っ掛ける。一番困るのはネクタイだ。大切にしていたネクタイに限って、ガサついた指の皮に引っ掛けて糸が出てしまう。何本か駄目にして懲りたので、最近では手袋をはめてネクタイを結ぶようにしている。ガサつきの次の段階になると指の角が割れる。割れれば痛いし、様々な作業に支障が出る。液絆創膏は沁みるので本当は苦手なのだが、この時期は活躍してくれる。患部に塗り込むとバックンバックンと心臓が指先に移動したかと思うほど痺れる。そこさえ我慢して固まってしまうと、何かにぶつけて痛いという煩わしさから解放される。冬季、12月から4月くらいは私の指先はズタズタになり、昔の悪役プロレスラーの額のようだ。

 言わずもがな祖父・父ともに、お生花の名人だが指は綺麗だった。半世紀前私の幼い頃祖父に玩具を買ってもらう時はいつも手を繋いでいたが、祖父の手はツルツルでピカピカ光っていたように記憶している。父は女性のように白く長い指をしていて、やはり傷などなかった。そうなると、私だけ指の使い方が下手なのだろうかと悩んだりした。他流の先生から「私は母から綺麗な手をした華道の先生には就いてはいけません、と言われました。先生はご自身もお稽古されている証です」と慰められた事もある。アロマテラピー検定にはマッサージの科目があり、取り合えず家内に練習台となってもらった。心を込めて螺旋を描くように手首から肘に向かってマッサージを始めた途端、「痛い!」と言われた。「ヤスリで擦られているみたい」と例えられた。私の指はそんなにザラザラなのかとがっかりする。

 爪も形が悪い。更に爪が伸びると表面がめくれてしまう。カルシウム摂っているのに何故がヘナヘナだ。親指の爪は横長の形をしている。何とも不格好だ。親指が縦長の爪の人を見ると羨ましい。

 そんな指と爪だが、立活を活けるには、とても適しているようだ。枝を曲げるのは腕力や握力ではない。私の造語だが「指先力」または「爪先力」が大事になる。枝はとても繊細だ。大雑把に力を入れると、撓めるつもりが折れる。折れないまでも、本当に形を直したい点よりズレてしまう。指先や爪先はそのポイントを逃さない。急所に突き刺さる。枝も曲がってしまっている所は瘤になったり力が加わって歪んだりしているので、真っ直ぐに戻すのは容易でない。痛くてつらい時もあるが指と爪は道具だと言い聞かせて、クッと突き込む。そのような時には縦長の爪より、私のような横長の爪は力が入るようだ。古い生徒様から「先生はマムシ爪だから器用ですね」と言われたことがある。不格好なうえにマムシなんて!と思ったが褒められたようだ。

 年末は透き通るような冷気と共に松、檜葉、木瓜、桜と枝物が増えてくる。指先の手入れに気を配りながら、いけばなを楽しもうと思う。

 

 

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