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第百九十五回: CMとか宣伝とか

 令和の世の中においてテレビ・ラジオ・新聞という媒体でCMとか宣伝というものを、日常生活の中でどのくらい見聞するのだろう。私たちの若かった頃に比べ、今の若者が広告を知る方法や機会は大きく変わっただろう。現代の若者はマスメディアに触れる時間が極端に短い。若者は学業にパソコンやiPadを使う。勉強の合間にはiPhoneでインターネットコンテンツを楽しむ。情報を得る媒体がデジタル化されてしまっている。テレビもラジオも新聞もスポンサー収入で経営を成り立たせるのは難しい時代になった。

 広告制作会社も商売しづらくなったと思う。SNSは恐ろしい勢いで社会構造を変化させている。マスメディアを対象に作っていたCMもあまりお金がかけなくなった。昔は人気タレントを海外ロケでスチール画像とフィルム画像を制作し、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌で広告を打つというのが上場企業の宣伝の方法だった。金額ざっと6億。企画も監督も一流だし、被写体も良いしカメラマンも凄腕だし、一級品の広告ができるのは当然と言えば当然だった。その時代を知っていると、私など「もはやこれまで」と思うが、そうはいかないのが世の中の面白い所だ。

 人と人のつながりは何物にも代えがたいと思う。人が人に何かを紹介するという行為が宣伝であり、商業用に特化すればコマーシャルメッセージCMとなる。宣伝部の最終目標はお客様に商品をご紹介することだ。その商品がいかに魅力的で素敵な商品かをお伝えする。

  流通では、顧客に心地よく優雅な気持ちになってお買物を楽しんで頂く事に腐心する。1990年私は百貨店で宣伝部の底辺を這いずり回っていた。宣伝部は装飾担当・イベント担当・広告担当・支店担当・管理担当・PR担当があった。それぞれ協力し切磋琢磨しながら最終的には「いかに百貨店を楽しんでもらうか。ご愛顧いただくか」に全員の意識が向いていた。

  宣伝部以外でも商品展開するビジュアルプレゼンテーション(VP)があり、店内案内があり、年間の行事をスケジュールする売出計画担当があった。1人のお客様が来店され、買い物を楽しまれ、お帰りになるまでに実に幾つもの部署が関わっている。店内の明るさ、音楽、通路の幅、商品の陳列の仕方から、社員の服装、発声、口調に至るまで「此処に来て良かった」と思っていただけるよう多くの工夫と努力とされていた。

  私の所属していたイベント担当は、新宿店内のイベントを展開・運営していた。その時その時で仕事内容が変わった。物産展の時は相応しい芸能を招いた。京都ならば舞妓さん、イタリアならばミラノ音楽院卒の女性弦楽三重奏を招聘する。新商品の発表イベントに選んで頂く事も多かった。資生堂やランコムなどの化粧品関係や宝飾などの婦人装飾関係などのタイアップイベントも目白押しである。夏休みは子供のヒーローショーを屋上で開催し、私が悪役の〇〇怪人に捕まる役(!)でステージに上がった。有名人のサイン会、写真展、書道展も開催した。毎日、イベントの企画会議か施工か開催中だった。その度に大なり小なりの失敗をしたものだ。

  その中で「初めての仕事に動じない」度胸が私の中に生まれた。仕事の途中で担当者が替わったり、予算が減ったり、外国の招聘者がパスポートを盗まれたりと、私の力ではどうすることもできないトラブルが立ち続けに起こった。初めはパニックになった。アドバルーンが嵐で飛んで行ったり、子猫キャラクターのイベントの壁裏で、東京べったら漬けを売り、子供たちが「キティちゃんくさーい。もらしたー!」と騒ぎたて、〇ンリオの社長に怒鳴られたりしているうちに、図々しくなり「どうにかなる」と思うようになった。

  始めから終わりまでレールに敷かれている仕事などどこもないことが骨身にしみて良く分かった。イベントが始まって起こったトラブルは諦め、開き直るしかないが、企画会議やブリーフィングには分かりやすく話すことを心掛けた。できれば楽しく話そうとした。相手に中での優先順位を上げるには何が必要か?同じ弁当を3つだし、「プロレスラーだからってそんなに食べませんよ」と高〇延彦に睨まれたりしているうちに身につけた。

  初めは無口で根暗で「この人宣伝部でやっていけるのかしら」と言われていた私が、一年後には「口から生まれてきたのか」と揶揄されるほどのおしゃべりになった。

  いけばなの世界で制作でも展覧会の準備をしていても、トラブルは付き物である。もちろん何も起こらないよう準備しているがノートラブルで済むことはない。起きてしまったことは慌てずに対処する。CMや宣伝で揉まれたからこそ人に伝える熱意、時代が求める流行を縦軸にすえ、一方で臨機応変に対処できるようになった。

  父がどこまで考えて就職させたか分からないが、親のいう事と茄子の花は・・・という通りだった。

 

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