第二百一回:
待ちぼうけ
そそっかしいので時間をよく間違える。出稽古に行き今週はお休みだったと言われたり、授業開始が3時半に変更になったのを忘れて4時半に行ったりする。生徒様を待ちぼうけさせてしまうなど家元にあるまじき行為である。時間だけでなく場所も間違える。デモンストレーション会場に出掛けた時、場所を確認せず、千葉県で4文字で「ま」から始まる駅としか認識せずに出かけてしまった。正解は舞浜に行かなくてはならない所を幕張に行ってしまった。のどかな風景が広がりどこにもデモンストレーション会場が見当たらなかった。運よく人を待たせなくて済んだ。
数十年前に少しだけ業躰先生に茶道の稽古を付けてもらった。ある時教室に行くと業躰先生もお宿の先生も不在で閉まっていた。私はまた勘違いしたと思い、来てしまった非礼を詫びた手紙をポストに入れて帰宅した。実はその日はお稽古があり、たまたま業躰先生が近所にお遣いに出ていたタイミングに私が訪れたのだった。教室に戻ると私の手紙に気付き大笑いしたそうだ。
学生時代アシスタントカメラマンをしていた時、ポカリスエットの撮影があった。当時リハウスガールとして人気のあったⅯが起用された。撮影当日の朝、デザイナーがⅯの横に置くサーフボードを忘れた。湘南から都内までデザイナーが往復する間、私はカメラマンとトランプをしていた。するとⅯが仲間に入れろとやって来た。さらに私達の賭け金のレートが低い、もっと上げようと交渉してきた。内心「こいつから金を巻き上げてマネージャーから何か言われるか」と面倒だなと思った。その心配は杞憂に終わった。カメラマンも私もⅯには全く勝てなかった。私などはその日のバイト代がほぼ消えた。最悪の待ちぼうけとして忘れられない。
加須の研究会に行く時、JRから東武線に乗り換える。久喜駅でのアクセスはいつも15分から20分待たされる。どうしてこんなに待たされるのか不思議で仕方ない。普段コーヒーは飲まないのだが、寒いホームで立っているのも辛いので、スターバックスで手を温めながらカフェオレを啜る。ここの待ちぼうけは研究会で話す事を考えたり、お知らせ内容を整理したりするのでそれなりに有意義になる。
さて、何故今回このようなテーマになったかと言えばまた待ちぼうけをしているからである。10時開始の仕事を9時と勘違いし、滅多に来ない町にいる。少し散策した後、コンビニの休憩所でコラムの下書きをしている。目の前の大きなガラス窓から朝の風景が見渡せる。駅前ロータリーには小型バスが乗客を待っている。大きな病院に出勤の人々が吸い込まれていく。あと数十分したら小雨の中仕事場へ向かおう。この時間も決して無駄ではない。少し変わったコラムが書けたのだから。
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