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第二十一回:愚痴

 野村監督のファンは多い。というか試合後の一言を楽しみにしている人は多い。だから楽天の試合のあとは、決まってコロコロした体をせまいすき間から引き出す監督の画面に変わる。監督の口からでるのはほとんどが愚痴だ。「まったく・・・」「どうなってんだか・・・」「こんなんじゃあ・・・」。私はこのての愚痴をきくとまっさきに父の顔がうかぶ。外見もなんとなく野村監督ににていた。父の愚痴は私たち家族に対して使われていたので、お弟子さんはあまり耳にしたことがなかったとおもう。

 私の立活を見るとき父はまちがってもほめない。かといってどなりもしない。目が下から上へ、上から下へ、もう一度下、上、下と2往復する。そしてボソッと「どうしてこの枝をこんなに曲げてしまうのか」とか「こんな良い枝はすなおに活ければ、立活も簡単なのに」とかいってからなおし始める。信じられないが父は浦高時代、落研に入っていた。なのに面白い話は苦手で、たいして笑えない。父は愚痴るときシャレがさえわたる。よく父に言われたのは「おまえの花と私の花では、ダイエットのCMの使用前使用後くらい見栄えがちがうから、直される前と直した後の写真をならべて張っておけ」といわれた。結婚前で少しでもやせたい頃だった。あまりに悔しかったので言われたとおりに貼って「本当だ。カツラのCMの使用前使用後みたいにちがうね」と言いかえした。ロクでもない息子である。

 もちろん父の愚痴の矛先は母にも向く。新宿の伊勢丹からお気に入りの靴をまとめて5足買い込んだ母をみつけ、父は「お前はムカデか」とだけ言った。それを聞いていた私は「じゃああなたはムカデの亭主で、俺はムカデの子か」と思った。もちろん母の購買欲はこれくらいの愚痴では衰えない。

 父の健康を気づかうという錦旗のもと、年々おせっかいがひどくなった母は、ある時父の本丸ともいうべき「喫煙」にかみついた。父はタバコを吸っていないときはタバコを吐いていると言われたヘビースモーカだ。そう簡単にやめるはずがない。しかし敵もさるもの。一度目標をさだめるとずっと言いつづける母親の禁煙勧告に父もほとほと手を焼いていた。業を煮やした母が「あたしとタバコとどっちが大事なのよ」ときつい口調で言うと、父は歌うように「お前さんよりより付き合いが長いのよ」と言いかえした。

 そんな父が亡くなるまえ最期にいった言葉は 「浩司、浩司」と2度私の名前を呼んだそうだ。そうか、最後は私の名前だったかと思い、少しジンと来ながら「どんな口調でよんでいたのかな」と聞くと「なんだか叱りそうだった」と告げられた。 名前の後どんな愚痴がつづいたのか想像すると、やはり聞かないでよかったと思う 。

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