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第二十四回: 花は、花屋で買おう

 いけばな教室と花屋の関係は、医者と薬屋または寺と石材屋みたいなもので、切っても切れない。 花屋には申し訳ないくらい迷惑をかけて、私は育った。子供のころ、退屈になるといつも花屋に遊びにいった。花屋のせまい玄関をはいると、ひな壇に置かれた桶に花がところせましと並び、たくさんの花の香りがまざった芳香が店内をみたしていた。従業員がいそがしく立ち働き、つねにお客がいた。私はこの活気の中にいるのが好きだった。

 花屋の仕事は店売り以外に、開店祝いの籠花や結婚式場のテーブル花装飾、誕生日記念の花束の配達などトラックバンがフルに活躍していた。そのトラックバンに乗せてもらうのが楽しみだった。行ったことのない住宅街の細道までトラックバンが入っていくと胸がときめいてしまう。従業員が花束を配達先に届け、伝票にサインをもらう。その一部始終を車の中で待ちながら私は見ていた。届けられた人は、新鮮なうつくしい花を見てほほえんでいる。私は関係ないのに嬉しくなっていた。 だが、花屋に当たり前に並んでいる花を「新鮮なうつくしい花」の状態にし、たもつのは難しい。市場で買ってきても、すぐ売れる状態にならない花も多い。それは花が水から離れている時間があるからだ。 花の流通についてかいつまんで説明しよう。花屋のセリが開かれるのは月・水・金曜となっている。前日の日中に花は生産地で切られる。切花は箱に詰められ、その日の夜中に市場につく。夜があけ朝7時くらいからセリが始まり10時くらいまでつづく。花屋はセリの帰りに昼ごはんをすませ、夕方から仕入れた花を店頭にだす。つまり切花は生産地で切られてから花屋の桶に入るまで丸1日以上水に入っていない。

 その花を「新鮮なうつくしい花」の状態に戻すのが花屋の技術だ。一般的に水揚 (みずあげ)といわれるこの技術はいけばなで発達した。水揚の技法は、いけばなの伝書に花型と同じくらい重きをおかれて記されている。また北大路魯山人は「花をほめるには、まず水揚をほめよ」という内容のエッセイをかいている。秘伝とされている水揚法も数多く残る。水揚を知ることもいけばなの稽古の一部だといえる。 水揚法を秋草でいくつかあげてみる。例えばキキョウは切り口をくだいて、塩をまぶす。ススキは日照りがつづいた曇りの朝採りにいき、切り口を酢につけてから深水に浸す。持ち帰りのときはぬらした新聞に包んで風に当てないようにする。菊は切り口からすぐ空気が入ってしまう。また金属を嫌うので、水の中で切り口を手で折る、などがある。

 新しく今出入りしている花屋は水揚がじょうずだ。この一年のあいだに桂古流のクセを一生懸命勉強してくれた。あまり口には出さないが感謝している。いい花屋に出会えたとおもう。花はこまめに市場で買ってくるので新鮮で長持ちする。旬の花は自分で産地まで出向いて切ってきてくれる。花材別に水揚法を変え、しっかり揚げてくる。なかなかできることではない。花を愛している姿勢が伝わる。花を飯の種としてあつかわない。この新しい花屋に仕入れさせた花材を私がいつまでもバケツに入れておくと「先生、一番いいところなんで早くいけてください」と催促される。きれいに水の揚がったところを活けてもらいたいらしい。水揚の難しい花は、仕入れてきてから3日、4日かけてようやく水が揚がったと喜んで持ってくる。

 ここ一年で私をとりまく環境は劇的に変化した。父の逝去と前の花屋の廃業である。父の逝去は桂古流内務の根幹をまた花屋の廃業は外務の根幹をゆるがした。花屋が昨年4月中旬に廃業、父が5月8日に逝去しているので、半月の間に起こった出来事だった。前の花屋は大正時代から桂古流と付き合いがあり、私の祖父の代になって桂古流の専属になった。私が子供のころ世話になったのもこの花屋である。しかし時代の流れなのだろう、おととし先代のだんなが亡くなり、若だんなが後をついで1年たった昨年2月下旬、急に廃業の挨拶にきた。くわしくは聞かなかった。のちに町の人から「なんで廃業の理由を知らないんですか」とずい分つめ寄られた。言わないことを無理に聞いても仕方ないし、私は花屋のつらさを知っているつもりだ。後継者不足に不況も追い討ちをかける。死に物狂いでやる気持ちがなくては、とてもできない。

 そこまでの想いをして花屋は店を開いていると思う。小ぎれいなチェーン店もいいけれど、街中にひっそりある花屋を一度のぞいてみてほしい。そしてみせかけでない「新鮮なうつくしい花」に出会ってもらえれば私もうれしい。

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