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第二十六回: 先輩

私はエライ人にはさからわない性格だ。その場の空気に波風をたてるのが好きでないし、エライ人にはエラぶらなくてはならない理由があるのだ。お盆やお彼岸に親戚が偉ぶって話しているのも同席しているうちの親を意識してのことだ。サッカー教室のコーチが偉ぶっていても、後ろに生徒がいれば仕方ない。生徒の手前虚勢をはりたいのだ。(あくまで一般論です)理由が分っているのだから逆らいはしない。近付かなければいい。

 どのエライ人とお付き合いするかきめるには多大な時間を要する。うたぐり深くグズで臆病なので決断するまでじっくりデータを収集分析する。端的にいえばそりが合うかどうかでウジウジなやむ。反面一度信頼してしまうと相当しつこくまとわりついている。いかにも日本人的だ。

 そんな私が簡単に胸襟を開いてしまうのが高校の先輩たちだ。誰をみても本当におもしろい。あっすみません。先輩たちは、やることのスケールがデカいし生きかたも独特だし40半ばをむかえても情熱とか愛情とか信頼とかを本気で語り合うし、賛辞としてまともな大人になってない。10代のトンガリやギラギラがそのままある。すごく変だ。

 特に一期生の先輩は群を抜いて変だ。処世術という妥協をほとんどしないで生きてきた人ばかりだ。川をゴロゴロころがった石は角がとれて丸くなっているはずなのに、角ばったまま異質なオーラをだしている。先輩たちの印象だ。自分をみると、なんてチンマリまとまった詰まらないオヤジなんだろうとがっかりしてしまう。

 須藤先輩T先輩M先輩I先輩、この4人と顔を合わせるたびに手をたたいて笑ってしまう。現在もそうだが先輩たちの高校時代の自由奔放さは、とても私と同じ学校とは思えない。具体的な事件は先輩の名誉のため避けるが、外見は普通の高校生なのに中身はひどいハチャメチャぶりだ。私たち4期生があんなに厳しかったのは1期生の先輩たちがやんちゃした反動かもしれない。暗い高校3年間の原因はここか、という気がする。先輩、文章がヘタでごめんなさい。尊敬しているのになぜか評判をおとしてしまう。いけない、いけない。

 須藤先輩は唯一本名で書かせていただく。ぜひご記憶されたい。小説家須藤靖貴その人だ。「俺はどしゃぶり」で賞をとられ、その後もアツい青春小説を数々書かれている。ご本人もアツい男である。人格者なので須藤先輩のもとには多くの人々が自然とあつまる。心遣いもこまやかで私も何かと面倒をみて頂いている。

T先輩は都内で保育園を運営されている。温厚なだけでなく理詰めでお話をすすめる。須藤先輩と両輪として素晴らしいコンビネーションをみせてくれる。理詰めだけでなくボソッという辛らつな一言がツボにはまると腹がよじれるほどおかしい。私はかわいい後輩としてT先輩にも良くして頂いている。

 M先輩は一見目立たないが傍で的確なアドバイスをいれる。優しい先輩で後輩の私たちも非常に話しやすい。行政書士で再開発のオーソリティでもある。立派な肩書きとは裏腹に往年の伴淳のような雰囲気があり、そこにいるだけで空気が和む。かつて埼玉県では高校生に原付免許を取らせなかったが、東京在住のためM先輩は免許を持っていた。嬉しくて原付で東京都心を走っていたら、中国の国家主席級が乗る車の前にとび出てしまい事情聴取をされたというハードな経歴を持つ。

 I先輩は地元の知合いとしてつき合いはじめ、その後高校の先輩と判明した。外国から留学して中途入学なので他の1期生より1歳年上で「うちの高校の卒業生で一番年上」と言っている。留学先でピアスとネックレスをして登校していたので、そのままの格好でうちの学校に来てボロクソ怒られたらしい。しかし次の日I先輩の親がどなり込み、ボロクソ怒った先生を土下座させた。海外で取得した運転免許を持っていたので赤いゼットで高校近くまで乗りつけ、カツ丼を食って車で帰っていった。ありえない、そんな高校生。

 先輩たちは僕が入学したときは高校を卒業していた。だから実際にはかさなっていない。けれど一緒に過ごしたような錯覚にとらわれる。先輩といると42歳と45歳ではなく、16歳と19歳になってしまう。思春期の16歳と19歳の差は大きい。先輩がとてつもない大人に感じる。「この人は自分より3年も先に色々な経験をつまれたのだ」そう思うと平静をよそおっていてもやはり緊張してしまう。先輩にかこまれていると、自分の抱えている問題などはどうにでもなるように感じる。先輩という近未来像が勇気付けてくれる。私のむかうべき方向 私にたりないもの 私のまもるもの 

 お茶を飲んだ帰り、先輩たちは笑いながら歩いている。お互いの肩をたたき、あとを追う私に男の背中をみせてくれる。数歩さきゆく、けっしてとどかない背中。ふと学ランを着た先輩がよんだような気がして、あわてて私はおいかけた。

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