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第二十九回: 漬物

 昔あまり食べなくて、最近すきになったものに漬物がある。キムチは子供のころから よく食べていたが、父が白菜の漬物を醤油の中でしゃぶしゃぶのように泳がせているのが どうしてもなじめず、従って漬物も苦手となった。父と私の外見は自分でもよく似ている と思う。声など間違えられるほどだったが、嗜好物とか趣味はかみ合わない。晩酌もタバ コも麻雀も釣も私が知らない父の楽しみだった。では私が野菜ぎらいだったかというと、 そういう訳ではない。サラダはすきだし中華料理ではピーマンや玉ネギだけ見つけて食べて 叱られていた。漬物だけ苦手だった。

 その漬物がすきになったのは、家内が漬けはじめ「我が家の味」となったことも一因だ。 日本の食卓には買うだけでなく家庭で手をかけなくては味わえないものがある。茄子、 キュウリ、ニンジン、カブ・・・キャベツや生姜もいい。細かくきざんだ漬物とご飯があれば 朝は十分だ。家政婦さんのまかないで育った私にとって、食事と餌は同義語だった。炊きたてのご飯もケロッグも胃袋にはいりゃ変わらないと思っていた。だから家内が当たり前のように「体に気遣いながら手間ひまかけて作る食事」「会話のある食卓」というものを演出することに本当にショックをうけた。自分の欠落部分を見せつけられた気がした。そして自分の日常にそういう食事が加わったことで、はじめて人になったような気がした。男なんて胃袋をつかまれたらおしまいである。家内が義父母のもとへ子供と遊びに行く。その晩どんな高価なものでも買ってきたものが並んだテーブルだとなんか味気ない。あたたかい味噌汁やたまご焼きが添えられていると とても幸せな気分になる。そして漬物、である。漬物は時間が大事な要素なのだろう。私は野菜を通して時間を食べているのだ。シャキシャキだった野菜が熟成した漬物になる。その過程を 想像しながら口に運ぶ。私が漬物だったらまだ浅漬けだろうか、とっくに古漬けなのかと空想する。

 12月の中旬に同じ小中学校の男女があつまって忘年会をした。休みがちな私を見捨てずさそ っていただけるのは素直にうれしい。今回も2次会の後半からしか参加できなかった。が、近況を語ったり、昔の秘話を聞いたりするのはかえがたい楽しみだ。「この前、新藤がいない時、Fが赤いパンツ一丁になってさ・・・」と写真を見せられる。40男にしては締まった体を赤パンだけがおおっている。こいつはまだシャキシャキ野菜か、と思う。でも痛風って言っていたな。ぬか漬けじゃなくて奈良漬か、と一人ほくそ笑む。

 同級会ってのは同じ畑で摂れた野菜がそれぞれのぬか床にはいってどんな漬物になったか見せあう品評会のようなものだ。みんな良い感じに漬かってきた。生徒会長だったOの話に笑いながら、白菜の漬物をまた一つ、つまんだ。





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