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第三十一回: 接客

 接客、これほど奥深くむずかしいものはない。 これは人間が他人(客)と社会生活をおくる以上、永遠につづく。客とは自分以外の他人である。「他人からみられた自分はどうなのか。自分の言動は他人にどううつるのか」これを知らずして接客はできないのだろう。 医者・教師・弁護士・政治家・公務員も接客をする時代である。 いまや接客しないで許される世界はない。

 私は接客が非常に苦手である。人前にでないで済むなら済ませたい方だ。家元になり、そうもいかなくなったので、ろくでもない顔をさげて人前にでている。人前にでて人と接するむずかしさを知る。電話だって本当は苦手である。会社つとめをしていたころ家で電話に出たら同級生だった。「あのさあ、お花の先生なのだから、そういう通り一遍の営業みたいな話し方やめたほうがいいよ」といわれひどく傷ついた。それからどういう電話の出かたが家元として正しい出かたなのか、悩んでしまい5コールくらいまでほかの家族が出るのを待っている。6コール目であきらめて出る。誰か家元らしい電話のでかた、かけかたを教えてください

 こんな頭でっかちに考えず自然にできる人もいる。腹立つエピソードだ。近所の肉屋に小学生のころから遣いに行かされた。高級な国産牛からフライやメンチまで扱う普通の肉屋だ。成人しても行かされていたので10年以上通った。そのあいだ一度もおまけしてもらったことも、ほめられたこともなかった。さえない子供だったのだろう。どこへ行ってもそうだったからお遣いにいっておまけしてもらうのはサザエさんだけだと思っていた。ある日息子がその肉屋に買い物にいくと、ジャガイモを半分に切って揚げたものをお土産にもらって帰ってきた。本当にあの肉屋かと半信半疑でたずねると、そうだと言う。ショックなことに何度ももらっているらしい。かさねて言うが私は10年通っておまけもほめられたこともない。私は何も考えず自然と人を気持ちよくさせる人間が身近にいることに愕然とした。小学生の息子にまけた。主客逆転だが、商売をしているほうも可愛きゃ何かほどこしてくれるのだ。私はよほど可愛げのない子供だったのだと改めて実感した。この話は前にも書いたがまたどこかで書くと思う。

 桂古流展を開催した時、よく食べに行くお店の人も駆けつけてくれた。欧風料理屋さんスパゲティ屋さん天ぷら屋さん中華料理屋さんバイキングのシェフなどなどみなさんお忙しいところお越し下さった。彼らを見ていると言葉巧みというわけではない。むしろ訥弁である。でも自分の言葉をもっている。体全身が話しているような、ぎこちないけどこちらが聞き込んでしまう話術がある。接客をしている男とはそういうものかもしれない。

 先日電気屋に行った。パソコンは説明を聞きながら買いたいと思ったので、量販店に行った。ほぼどれにするか決まっていたので店員さんを呼んだ。真面目そうだが気のきかない男性がきた。商品を求めると展示品しかないという。でも新商品と張り紙に書いてあるじゃないかというとパソコンは3ヶ月で新製品に切り替わるからまだ新製品なのだという。じゃあ一応点検をたのむというとこのまま持ち帰ってほしいという。せめて古い機械を引き取ってほしいというと手数料がかかるという。それがマニュアルなのだろう。しかし彼は別に申し訳なさそうでもなく淡々と口にするのだ。だから私は「もうここでは買えないね。○○電気に行こう」と家内に言った。家内に言ったふりで店員君に言ったのだ。家内はあおざめた。しかし店員君は淡々とこたえたのだ 「どうぞ」 と。 思わず 「こいつ単3電池とリモコンがついてんじゃねえか・・・」と背中をみたほどだ。 彼のどうぞの言葉だけはありがたく受け、ほかの電気屋へ行った。

 その数日後ひとりでデパ地下に行った。食料品売場はいつも緊張する。男性一人でどうみられるのか妙に意識してしまう。できれば買い物籠も持たずにサッサとレジを通過したいのだが3つ4つと増えるとやはり籠が必要になる。仕方ないので籠をぶらさげてレジに行く。そこにきちんと背すじをのばしたレジ係の女性が立っていた。思わず自分の背中が丸いのではないかと恥ずかしくなるくらいピンと伸びていた。いらっしゃいませ、の挨拶のあと商品を丁寧に素早くカウントしていく。お箸は何膳ですかとたずねられ「おや」と思った。近所で自営業をいとなむ知人と同姓だったからだ。この前まで小学生の写真が年賀状で送られてきたが、あの少女がもう成人したのかと思った。最後まで礼儀正しいお辞儀をされ、気持ちよい接客をうけた喜びにおもわず携帯で父親に確認した。やはりそうであった。大学1年でアルバイトしているのだという。私も大学生のころ接客の仕事をしたが、あのお嬢さんのようにはいかなかった。どちらかといえば電気屋の店員君の仲間だ。

 私は就職するのに資格はもちろん必要だと思う。学歴人脈なんでも使ったほうがいい。しかし接客を経験した人としていない人では面接に差がでると思う。 言葉と姿勢と雰囲気で客を気持ちよくさせる。やはり接客はむずかしい。





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