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第三十八回: いけばな展の転換期

 私は自分が幸運だとおもうことが多い。「おめでたいヤツ」というかなんというか。今回の金沢で開かれた展覧会も参加できて本当にラッキーだとおもう。 この展覧会に参加していなかったら年をとってきっと後悔をした。それほど高いレベルの展覧会だった。

 ではなぜもっと宣伝しなかったのか。展覧会が終わり振り返ってみて、はじめて全体のスケールを理解できたからだ。事前に展覧会の全貌が想像できていたならばそして成功するとわかっていれば、強引に誘えばよかった。私のつたない文章しか伝達手段がないことに悔しさを通り越して怒りすら感じる。

 平成22年9月22から26日まで金沢21世紀美術館で開催された本展は、正式名称を日本いけばな芸術特別企画in金沢、という長い名前が付いている。サブタイトルに「見る きく さわる」とある通り、従来の展覧会が見るだけに重点を置いていたのに対し「聴く・触る」を充実させた。

 私たち協会内部の者にすれば、加入流派300超、4100人余の会員をかかえる巨大いけばな組織が次代を見すえて、いけばな展の転換期をはかろうとしたように思える。実行委員を仰せつかった時、一緒に活動する人たちの若さに驚いた。華道界で43歳と言えば若手に入れられる。一般社会からみれば非常識なことをついつい忘れがちだ。その部分を突き付けられたように私より若い方々が選出されていた。「協会が本気で変えようとしている」それが心底伝わってきた。実行委員の人選と与えられた権限に対し、武者ぶるいがした。 手前味噌の部分もあるが我々は良くやったのではないかと思う。じゅうぶんに成功といえる成果をあげた。入場者数は延べ人数で17000人は越えたろう。大きなトラブルもなく「いけばなってやるね」と感じてもらえたはずだ。裏話は後にゆずるとして内容の詳細をお伝えしたい。

 聴く方では遠山敦子会長の講演にはじまり、ユニクロのロゴをデザインした佐藤可士和氏の講演、3流のシンポジウム、陶芸家や流派同士のトークショー、伐出屋で神戸花宇の若社長の実体験談。また子供作文コンクールの発表など普段は聴くことのできない話ばかりだった。

 見る方は、いけ芸で今もっとも活躍している会員の作品展が、1階と地階のギャラリーで展開された。東西の主要会員がこれだけ一堂に会する花展はめったにない。花材、技術、センスどれをとっても文句なしの作品が並ぶ。気の抜けたいけばながあったら、確実に吹っ飛ばされてしまうだろう。若い作家特有のピリピリした空気につつまれた花席は見ているだけで気合が入る。まさに真剣勝負の展覧会だった。 

  会場も良かった。2010年プリツカー賞をとった姉島氏デザインの美術館だ。緑の芝生に周りを囲まれ、白とガラスを基調とした外観は、一見シフォンケーキを想像させる。外観同様に室内もすばらしくヨーロッパ諸国からの来館がとても多かった。本展は当初予定していた出品数を大幅に上回った。会場図面で見ていると、きつすぎるかなと不安も覚えた。今となれば丁度良い作品数だった。装飾会社も都心の花展と何ら変わらないレベルに会場を仕上げてくれた。ダウンライトを効果的に配したことで個々の作品が浮き立った。 地階にあるシアターではいけばな関係の映画も数多く上映された。画面で見る生け花資料は非常に珍しかったと思う。私もいけばな造形大で北条先生に見せていただいて以来だった。同じくシアターで行われたデモンストレーションも迫力があった。私も最終日に出演させてもらった。シアターだと波のように観客席が配されていてとても緊張した。でも楽しく出来たのはスタッフのおかげだと思う。

 1階ギャラリーのコラボレーションは、ご当地金沢の若手伝統工芸作家とのユニットを組んでの展示だった。陶器・漆器・ガラス・彫金など多岐にわたる工芸作家との出会いも迫力があった。静かな作品の中にお互いの魅力を引き出すもの、個性同士がぶつかり合うものなど様々な表情が見てとれた。 1階の入り口には年表がかかっていた。ただの年表ではない。たてはな・立花・生花・文人花・盛花・オブジェなどが成立した時期にその実物が飾ってあるのだ。これはいけばな関係者だけでなく一般客に好評だった。言葉だけでは通じないいけばなの形が当代一流の先生によっていけられているのだ。これは財団法人日本いけばな芸術協会以外ではできないのではないか。

 金沢21世紀美術館に隣接する茶室や近隣の古民家も作品展示が行われた。和の空間にたたずむいけばなは、古典であれ造形であれ作品をとりまく場を意識しなくてはならない。私は前期に美術館・後期に古民家と2度作品展示したが全く別の展覧会に出した気分だった。いつもは静かな古民家に1日600〜700人の観客が押し寄せた。 触る方では体験授業(ワークショップ)や参加型シンボルモニュメント、スタンプラリーなどの企画で観客にも一体感をもってもった。展覧会の作品にお客様みずから手を出せるなんてとても楽しい記憶として残っただろう。 最初は不安だった。何か大きな失敗がなければとそればかり祈った。それは杞憂に終わった。運営委員をはじめ会員、お手伝いの方、お客様の質がすばらしくそれぞれのポジションを最高の状態に導いた。時に仕事をし、時に観客になった。 まさにオールホスト・オールゲストだった。参加者の交流を深めたと思う。

 実はこの文章は花展がおわって10日後に書いている。冷静に書けるようになるまで10日間必要だった。それでもまだ興奮していて通じない部分もある。私たちがここまで興奮するのだから見に来たお客様も相当楽しかったと思う。ぜひまた次の機会があればと思うし、桂古流展にも反映したい内容でもある。


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