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第五十七回: ヤワラと教育

 話がいかにして転んだか、はっきり覚えていないけれど、柔道では道着の下は何も着けないという習慣がある、だから私も道場へはいるとき道着の下は着けないと言ったら、急に色めきだって反応されてしまった。「えっ…じゃあ・・・つけないんですか」という相手の目には好奇心ありありである。

男子更衣室で着替えている時は温泉のようで誰も何も身に着けていないというと、その方は妄想の世界に行かれてしまったようで一人頬を赤らめている。
下着をつけない説は緒々ある。内股など腿をけり上げる技を受けたとき、運悪く局部を直撃してしまうことがある。その時何もはいていないほうが直撃をのがれ大ケガせずに済むからだともいう。

しかし柔道はパンツだけでなくシャツも着ないのだ。さらに柔道だけでなく多くの武道は下着を身に着けない。私は武道のフェアな精神がそこにあると考えたい。

 武道とは原理をたどっていけば殺し合いになる。命をかけた闘いである。それゆえ試合前の公平さ公正さには極限までこだわる。
柔道を例にとってみよう。柔道はお互い道着をつかんで技をかける武道である。それゆえ道着が不正に改造されていたら…昔なら気付いた時に殺されている。
袖口を細くして相手に持たれづらくしたり、襟元に油を塗ってつかみづらくしたり。いまでも国際試合ではよく耳にする話である。不正は審判の「始め」の合図のずっと前から始まっている場合もある。
よって道着の袖の長さ袖口の広さの検査は厳重になる。フェアの裏には負けても(殺されても)言い訳のしようがない、と敗者に納得してもらうためでもある。
そのためには身につけるものは極力少ない方がいい。武器を隠し持てる場所もない方がいい。
よって道着以外の着用は認めないのだと思う。


さて、2012年から中学校で武道が必修化される。安全を問う声は各会の功績により学校で広く認知された。しかし武道はいかに相手を仕留めるか、とどめをさすかの道である。武道と安全というのは、かみ合わない気がする。
私が学生の頃よく先輩から「武道は痛くて当たり前」「痛いのは生きてる証拠、痛いと言えるのは元気な証拠」とドヤされた。そういう先輩も強豪校の選手にボコボコにされていた。運よく重い障害が残った部員はいなかったが、それでも膝を割ってレギュラーをあきらめた友人がいた。柔道の強豪大から機動隊にいった友人は息子に柔道をやらせない。理由は「危険だから」と言った。


それでも柔道を教育に取り入れる利点はなんだろう。
私は「被害者、加害者以外の傍観者をなくす」ことにあると思う。いまだになくならない生徒間のトラブル。関わりのない者は知っていても知らないふりをする。巻き込まれなければ対岸の火事だ。卒業してしまえば赤の他人でいられる。よってクラスは被害者加害者の当事者と、それ以外の傍観者に二分される。

痛い思いを肌で経験していない人は弱者に優しくなれない。生徒間のトラブルは周りの生徒が声を出すことで少なくなる。被害者と加害者だけの閉鎖的な世界を作らせない世論は「痛み」を知った人が作り出すべきだ。肌で痛みを知ってこそ弱者のために立ち上がれる。投げられれば、痛い。痛いのは嫌だし、負けるのは悔しい。だから努力する。そのうち柔道の根源に流れる陰陽に出会う。陰陽とともに心技体が備わってくると余分な力が入らなくなる。被害者、加害者が一定にならず、日々入れかわる。そしてみんなが痛みを知る。

ここで人はハタと気付くのだ。相手と徹底的に真剣に闘うけれど殺そうと考えていないことに。相手に勝たねばならないが、同時にお互い成長し再び闘いたいと願っていることに。精力善用自他共栄の精神、その根源は命の取り合いから始まった武道が相手を思いやる人道へと昇華させることにある。柔道が整形外科医や鍼灸、柔道整復などの世界ともつながっているのはその証拠である。

柔道は武道から始まっているから100%安全とはいえない、時には体を壊すこともある。しかし柔道は体を壊すのが目的ではない。体を壊さないよう防御する受け身から練習が始まること、そして体を壊しても再び動けるようになるよう努力する世界と密接につながっていること。柔道が求めたのは果たし合いの道ではなく、許す心の道だと思う。


許しあわない社会に加害者の再生はない。被害者をたすけ、加害者をゆるす。実際に痛い思いをした者だけにできる考えだ。
道の付く世界に住む者として柔道がいかに教育にとりいれていかれるか、大いに興味を持っている。



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