桂古流いけばな/活け花/フラワーアレンジメント/フレグランスフラワー

ホームサイトマップ
 

第八十六回 授業料を受け取るということ

 月謝が授業料にかわり、月謝袋が納入書にかわってしまったのはいつのことだろうか。
多分、師匠が先生となり講師に落ち着いた頃だ。お弟子さんも生徒さんと呼ばれるようになった。

 名称が変わろうとも私達はいけばなを教えることで生活している。代々の家元と変わらず教場で一日の大半を過ごしている。
 経済活動としては生徒さんから月謝をいただくこと。それで私達の生活は成り立っている。初心者から奥伝までは6000円、師範者以上は7000円いただいている。



 大学卒業後2年間、百貨店に勤めていたせいか、私は「お金」をどう稼ぐかということを話すことに恥じらいがない。私達はこの世にいる限りお金をつかう。食事をし、衣服を着て、屋内に住む。それにはお金がかかる。死ぬ直前まで私達は金を稼がなくてはならない。政治家は私達が金を稼ぎやすいようにするのが大事な仕事だし、金の稼ぐことに敏感な支配者が世の中を牛耳ってきた。

 かつてのいけばなの先生方は芸や技については一晩中語り明かしたが、お金のお話しはしないものだったらしい。いけばな造形大でも芸術論は出たが、どうやっていけばなで生活していくか、金をかせぐかという話題はでなかった。
 柔道の嘉納治五郎はその点ちがった。柔道は好きだけれど生活できない、という門人の声に耳を傾けた。何とか柔道が金稼ぎにつながらないか真剣に考え柔道整復師の道へとつながっていった。

 人気ミュージシャンのスガシカオは一時期、プロダクションから離れ個人で活動していた。コンサート会場とるのも、チケット販売も全部自分でやりくりした。会場の担当者に「スガシカオですがコンサート会場貸して下さい」というと「ふざけるな、スガシカオが電話してくるわけないだろう!」と怒鳴られた。そういう経験をしてやっと借りられた会場。昔のように広告を打ってもらえない。限られた情報を頼りに集まってくれたファン。スガシカオはコンサート会場で心から感謝した。

 

 有川浩の「シアター!」にはヒロイン羽田千歳が声優を離れる理由を主人公の兄、司と語るシーンがある。声優として褒められると浮かれる自分がいやだと千歳が言う。
司「その声売ってんだろ。客の前で自分の売った商品はダメですとかアウトだろ」
千歳「…でも、何か自分に自信持てなくて」
司「それ甘え」
司「売った責任てもんがあるだろ。売り手から先回りして商品の価値さげるもんじゃない。誠実って言うと聞こえはいいけれどそれは自分が背伸びしなくて済むっていう楽しているだけ。手ェ抜いたんならともかくそうじゃないなら「良い仕事をしました」って胸張るのが売り手の義 務」

 私も千歳と同じようにこの部分で横っ面をはたかれたような気がした。そして売っている商品に自信が持てなくて苦しんだ新人時代を思い出した。
 日本はデフレーションから抜け出せずにいる。私と同じように自分の売っているものの価値が見出せない人が増えているのだと思う。自信を持って定価で物を販売することの大切さを社会人が気付かなくてはならない。



  さて、いけばなが実社会の職につながるかと言われると難しい。いけばなよりフラワーデザインとかフラワーアレンジの資格の方が花屋さんの就職に有利に働く。ヒューネラルフラワー(仏花)の勉強もアレンジの有資格者のほうが熱心だ。いくらお金を稼げても、いけばなの先生が葬儀の祭壇花をいけるのは抵抗があるようだ。
私達はやはりいけばなを学びたい人のために、知識・技術を提供していくことが一番の仕事である。
 いけばな懇話会の記念ディスカッションで吉村華洲先生が「いけばなで高額納税者を目指す若者が出るくらい、いけばなが経済的にも発展すればいい」とおっしゃった。実にその通りだと思うのだ。

 毎月、授業料を受け取るとき、自分というものの値段を考えながら手続をする。

 

 

バックナンバー>>
桂古流
最新情報
お稽古情報
作品集
活け花コラム
お問い合わせ
 
桂古流最新情報お稽古案内作品集活け花コラムお問い合わせ
桂古流家元本部・(財)新藤花道学院 〒330-9688 さいたま市浦和区高砂1-2-1 エイペックスタワー南館